緩く瞼を持ち上げる。見覚えのある、天井の板間が目に入った。

「っ旦那!?」
「佐助…」

ぼんやりと上手く回らない頭、意識。
畳の上に敷かれた布団の上に寝かされていると、辛うじてそれだけが分かった。そして横たわる自身を覗き込んだ夕日のような髪を持つ己の部下。ゆるゆると瞳を動かして見てみれば、佐助の目には薄らと涙が。忍という、普段から感情を殺して生きる職に就いているこの男にしては珍しい。

「俺は…」
「まだ喋んないほうがいいよ旦那。アンタ、三日三晩生死の境をさ迷ってたんだぜ」
「三日、三晩…」
「そう。全く、天下一の兵と呼ばれる真田幸村がたかが足軽に刺されるなんて…。これで死んでたりなんかしたらいい笑いモンだよー」
「すまぬ…。心配を掛けたな、佐助」
「ホントっすよ。これに懲りて戦場で油断するなんてやめてよね」
「うむ…」
「ん、いい返事!それじゃちょっくら俺様はお館様に旦那が目を覚ましたこと、報告してくるよ」「ああ」

刹那、佐助が姿を消す。今まで彼がいたところには黒い靄が漂い。次第にそれも空気に溶けていった。消えた靄から目を離し、ジッと天井の木目を見つめる。 あの空間は何だったのだろうか、と。どこまでも続く空と水の大地。風に吹かれ雲は流れてゆくというのに体で風を感じることは出来ず。
今こうして思えば何とも幻想的で美しい光景だったと感じる。あの時はそう思える余裕が無かったが、と苦笑いを浮かべた。

「(あの女子は一体何であったのだろうか…)」

やはりアレは夢で、彼女は己が作り出したものだろうか。だとしたら何と破廉恥な。脳内で女子を形作り、夢に見せるなど。 そう考えれば考えるほど、あれらが全て夢だったように感じ始めた。あの世界、彼女とのやり取り、そして約束。夢だと思うと途端に少し残念な気持ちが膨らんだ。
彼女との約束を果たすつもりでいたのに

『私も、約束を果たしてもらうつもりでいるよ』

聞いた声が頭上から降った。

亡き声


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