どこまでも続く糸と水。下のほうは青が深くなっているというのに、何故かハッキリと糸は見えて。
一体これは何だろうか。

『それは君の肉体と魂を繋ぐもの。それがあるうちはまだ君は死んでいない』
「なんと!!ならばこの糸を辿って行けばっ!」

言うが早いかすぐさま幸村はその場に膝をつき、顔から水中へ飛び込もうとした。けれども。
ゴッ
勢いよく水中へ顔を入れようとすれば、鈍い音を立てて何かにぶつかり。ごろごろとのたうち回る結果となった。 痛みに悶え苦しみ声を上げる幸村を見て女は ハァ… とため息を吐き。止まりはしたが倒れたまま痛みに震える幸村へ声を投げた。

『君はもっと人の話を聞いたほうがいいな』
「う、うぬ…!佐助… 某の部下にもよく言われるでござる…」
『そうか、なら私は別の言葉を贈ろう。“冷静になれ”が君には合いそうだ』
「ぐぬっ」
『落ち着いて状況を把握すればこの下に潜れないのは分かるだろう。何せ私たちはその上にこうして立っているのだから』

正論を突きつけられて押し黙ってしまう。
そう、少し考えれば分かることだ。この海とも湖ともつかぬ広大な水の上に、どうしてか立っていられるのだから。水に浮かぶ船に乗っているかのように揺れるでもなく、一枚のガラス板があるかのようにしっかりとしている。歩いたりすれば当然のように波紋は立つのに…。不思議だ、としか言いようがない。

「し、しかしならばどの様にすれば戻れるのでござろうか? もしご存知ならば是非ともお教え下され…!」
『ふむ…』

今、頼れる者はこの女しかいない。まだ短い時間しか相対していなかったが、その短いやり取りでも彼女の知能の高さは伺えた。 死者であるか生者であるかを見抜く方法を知っていたしそれ以外にも、と。 知っているなら教えてほしい。帰りたいのだ、あの場所へ国へ人々のところへ。彼処こそ、己が在るべき場所。

『確かに私は知っているよ、肉体への戻り方を』
「! なれば!」
『ただし条件がある』
「じ、条件でござるか…」
『何、そんな身構えることはない。さして難しいことでもないさ』
「う、うむ…。して条件とはどのようなモノで…?」
『調べ物があってね。それに協力してほしい』

それだけだ、と締めくくるように言われて思わずポカンと口を開けてしまった。


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