黒い、南蛮の外套。はためいているそれを見て、これを鳥と見間違えたのかと納得する。まるで鴉のようだ。しかし、それにしてもと突如として現れた女を見て奇異な着物を着ているなと思う。
外套だけなら魔王と称される織田信長等も着ているのでそこまで物珍しいとは感じないが、その下に着ている物が。着流しや普通の着物とは違い上下の別れた物。どう表現すればいいのか分からないが、とりあえず下はとにかく短い。惜しげもなく太ももが晒されており、履き物も膝まで覆うという変わった物で。履きづらくないのだろうかと妙な疑問を抱いてしまった。恥ずかしさのあまり叫びだしそうになるが、それよりも前に女が口を開いた。

『―…それで、君は何故こんなところにいる』
「っ! そ、某は…」
『うん?』
「戦の最中、死んでしまい…。それで、ここに…」

改めて思い知らされる現実に一旦引っ込んでいた悲しみや後悔が涙となって現れる。ギリッと唇を噛み締め拳を握り締める。どんなに此処で悔しがっていても、もう戻れないと分かっていた。けれど。固く、ぐるぐると結ばれた紐のようなってしまった幸村の心を解すように女の声が耳をついた。

『…何か勘違いしているようだから言うが、此処はあの世なんかじゃないぞ』
「…は?」
『更に言えば、“此処”にいるということ君はまだ死んでいないことになる』
「なっ!ま、誠でござるかっ!?」

と言うことは女も死者ではなく生者ということだろうか。てっきり自分と同じく死んでここに来たとばかり…。驚きのあまり勝手に体が動く。ダッと駆け出し女の両腕をがしりと掴んだ。もし本当に死んでいないというのならば此処から、この不可思議な空間ら出なければ。お館様や佐助、武田の皆が待つ甲斐へ。 焦ったあまり力いっぱい腕を握ってしまっていたが、女は平気なのか我慢しているのか顔色一つ変えずに言った。

『誠だ。…というより死者は此処に来れん。生者も然りなんだがな』
「どういう事でござろうか…?」
『簡単に言えば来ようと思わない限り此処へは来れないという事だ。…弊害が起きない限りはな』
「弊害?」
『流石にそこまでは分かりかねるよ。とりあえず君が死んでいないのは確かだ。足元を見てみろ』

促されるまま女から一、二歩離れ己の足元を見てみる。先ほどは気付かなかったが何やら細く白い糸が両足の裏から伸び、もつれ合うようにして水底まで続いていた。


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