こちらのネタより派生。主人公の名前固定。



その少年を初めて見た瞬間、確かに時が止まった。



その日王下七武海が1人ドンキホーテ・ドフラミンゴはとある春島に降り立っていた。自身が船長を務めるドンキホーテ海賊団。それの所有する船に乗ってやって来た。たまにはこうして下っ端クルーに姿を見せ乗船して指示を出すのも船長としての仕事だと言って、ふらりと。高嶺の花が目の届くところに降りてきてやればクルーの鼓舞に繋がる。

まあぶっちゃけ幹部以外のクルーがどうなろうがどう思おうが知ったこっちゃないが。けれどいざという時に己の為に命を投げ打ってでも働かせるにはある程度の信望を集めねば。恐怖と信望で動く使い捨ての駒は幾つあっても困らない。

「フッフッフッ、それにしても何にも無ぇ島だなぁ」

きょろりと周りを見てみても面白そうなものは何一つ無い。島民に賑わう市場に茂る植物。多少他の島より草木が多いが際立ってでもない。
暇潰し… おっと、部下を思って乗船したはいいが失敗だったか。もっと面白い島に行く時にすれば良かった。無論彼にとっての面白いはデンジャラスかスリリングかのどちらかだ。物資補給をクルーに命じて先んじて降りたが。娼館の1つもないとは。飲み屋はあるが今は気分じゃない。それでも一通り回ってみるかと歩みを進めた。

春島の、暖かな風が肌を滑る。それに乗って花びらが数枚運ばれドフラミンゴの元へ。何の花かも分からないそれは淡いピンク色で。彼が羽織っているどピンクのコートよりかは優しい色合いだった。顔の高さまで舞い上がってきた花びらを指で摘まんで捕まえる。
一体何処からやって来たのだろうか。植物も花も周りに茂っているがこれと同じような花は見つからない。首を傾げながらもまぁいいかと花びらを放した。その時、人の声が耳に入ってくる。それも高めの、子供特有のもの。釣られるように意識をそちらに向け、顔を動かす。見れば脇道に“展望台広場”と書かれた看板が。子供の声はそちらからしている。ニンマリと口角を上げて脇道へと歩き出した。

コツコツ。靴を鳴らして坂道を登れば存外あっという間に終わりは来た。上がりきったそこには港町を一望出来る展望台。というよりは高台と言った方が正しいか。恐らく津波などの災害が起きた際には島民はここに避難するのだろう。眼下に広がる町並みを見て、思ったよりは広いなと感じた。

「はい!アンバーお兄ちゃんにあげるっ」
『ありがとう。上手に出来たね』
「えへへっ」

子供のはしゃぐ声。どうやらすぐ隣が子供の遊ぶ広場となっているらしい。数人の子供が駆け回っていた。

その手前で、見事に花が咲き誇る一角の中で小さな女の子とそれよりも年上の少年とが仲良く遊んでいた。摘んだ花で編んだのだろう、十にも満たない少女が少年に花冠を被せていた。少年のほうは13、4といった頃なのに嫌がる風もなく花冠を頭に受けて。
まるで、洗礼を受けているようだった。
編まれた花が淡いピンクの花弁をしていることから、先ほどの花はこれかと当たりを付ける。どれ、1つ子供らと遊んでやろうかとまたこつりと靴を鳴らせば音に気付いた少年が振り返った。

瞳が、合わさる。

琥珀色の瞳に、太陽を柔らかくしたような髪の色。それらを際立たせるような白い肌は滑らかでただの1つも傷はない。言葉もなく、触れてしまいたくなった。自然と動き出しそうになった自身の手にハッとして瞬きを1回。その間に彼からの視線は外れてしまった。それが何とも寂しくまた腹立たしくもあった。基本常に笑みを携えていた口元が一文字に結ばれる。

―美しい少年だった。

陶器のような肌に柔らかな髪や瞳は勿論、顔の造形が何より素晴らしかった。目の形睫毛の生え方頬から顎にかけてのライン骨の凹凸の無い鼻筋。1つ1つのパーツが整っていて。神が、端正込めて丁寧に丁寧に作り上げた人間。何て事を考えた。
我ながらフザケたことをとは思うが。やけにしっくり来てしまう。

美しい女も男も見てきたし抱いてきた。宝石も絵画も陶磁器もこれまで幾つも手に入れてきた。しかしあの少年はそれまでとは格段に違う。成長すればあの女帝をも凌ぐかもしれない。伏し目がちの瞳から、その華奢な全身から彼の儚さが見てとれる。それが彼の魅力を存分に引き立てていた。もっと自分を見てほしい。もっと声が聞きたい。名前を呼んでほしい。己の欲望に忠実なドフラミンゴはすぐに動き出した。

「よぉ」
『 ! …こんにちは』
「フッフッフッ、コンニチハ。お前名前は?」
『アンバー、です』
「フッフッ!アンバー!いい名前じゃねェか!その瞳にピッタリだ!」
『…………、』

何かを感じ取ったのかアンバーは一緒に遊んでいた女の子に他の子達のところへ行くよう促す。2人は似ている部分は1つもない。ならば兄妹ではないのだろう。残念だ。血の繋がりがあったなら連れてっても良かったのに。

ドフラミンゴの笑みが深まる。その大きな手でアンバーをヒョイと抱えた。見た目通り軽い。

『!?』
「オレぁお前が気に入っちまった。だから連れて帰る事にするぜ」
『…っやだ、やだ!離して!』
「聞けねェなあ」

標準よりは小さめなアンバーを腕の中に閉じ込めて空を飛んだ。彼の頭に乗っていた花冠が地上へと落ちて行く。似合っていたけれど、仕方ない。もっと良いものを与えよう。

欲しいものは力ずくで。それが海賊だ。


永遠の結晶


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