全ての仕事を放り出して本部の廊下を歩く。目的地は勿論海軍元帥センゴクの元だ。青雉に押し付けられた仕事? 知るか。こっちはもう堪忍袋の緒が切れてんだ。それはもうズタズタに。ビジネスライクな関係だったとは言えそれなりに尊敬していた人間があぁ言ってきたのだ。それも仕方ない。
もうどれだけ。青雉が引き留めようとも何がなんでも異動すると心に決めた。意思は固い。

『……あれ、』
「おっ」
「あぁ勇介さんも来たんですね」
『おう。自分でもびっくりするらいあっさり限界が訪れた』
「もうちょっと堪えろよ…。オレみたいに」
『嫌だね。堪え忍んだ所で良いことなんざ起こりもしねぇ。ストレスが一番体に悪いんたぞ』
「そうですね。今回ので身に染みました」

元帥の執務室前に居たのは同じ境遇の同僚2人。勇介同様白い封筒を手にしていた。それが異動願か退職願かは分からないが。どちらにせよ、もう大将の元で働くのは無理ということだ。異動にしろ退職にしろ引き継ぎがあるからまだ暫くは此処で働かなければならないが。
それを下手に引き延ばしたくはない為の早期行動。目配せして一つ頷くと勇介が代表として扉をノックした。

『失礼致します。大将赤犬・黄猿・青雉の文官3名。入室を希望します。』
「……入りなさい」

許可を得たのでガチャリとドアノブを回して入る。書類提出の為に日に一度は訪れるこの部屋。大将たちの執務室もそれなりの広さだったが、やはり元帥。広さも年季も調度品の質も違う。これを見るのも後僅か。見納めとばかりに瞳だけを動かして室内を見渡した。
いつも通りそこにはヤギがいて。ふと、そう言えば名前を知らないなぁと場違いな事を考えた。

「どうした揃いも揃って」
『お忙しい中大変申し訳ございません。本日はこちらを受け取って頂きたく伺わせて頂きました』

3人横一列に並んで一斉に封筒をセンゴクの机に提出する。勇介と黄猿のとこの同僚は異動願だが嗚呼やはり。赤犬のとこの同僚は退職願だった。彼が一番肉体的にも精神的にも被害を被っていたからそれもやむを得まい。
それを見て苦い顔をしたのは全員だった。それぞれがそれぞれ。特徴のある字で書かれた文字。しかしそのどれもがセンゴクにため息を吐かせるには十分だったらしい。

片手で眉間を押さえるようにして深く長いため息を吐き出す。彼自身も三大将たちの状況は深刻だと思っていたが…。ついに周りの被害者がこうして動いてしまった。この三大将付きの文官は誰もが優秀な人材。手放す訳にはいかない。特に今は。

「…一応聞くが理由はなんだ」
『一緒に仕事をするのが困難になったので』
「流石に体調を崩してきたので」
「もう嫌です無理です死にたい一歩手前です」
「…………。」

特に退職を希望している文官が際どいようだ。顔に生気が全くない。彼はあの赤犬の文官であるからそうなるのも納得出来た。

「お前たちが頭を悩ませているのは今の大将たちの状況だな」
『まあそうですね』
「…その原因に心当たりは?」
「心当たりも何も…。」
『自称異世界からやってきたという少女でしょうね。明らかに彼女がやってきてからおかしくなりましたし、彼女に対して異常な愛情を向けてますから』
「…そうか!じゃああの子を殺れば!」
「させねぇよ!?」
『気持ちは分かるけどちょっと落ち着こうなー

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