『すみませんがもう一度仰って頂けますか?』
「俺の代わりに書類捌いて」
『死んで下さい』

じわりじわりと毒が回るように。あのトリップ少女の影響は海軍全体へと及んでゆく。まぁ海軍最高戦力、軍の要から落としたのだ。いずれそうなるのも目に見えていた。

赤犬、黄猿の所の同僚がその余りの酷さに疲弊しきっていて。いずれ己の上司の青雉もより酷くなるだろうと予想はしていた。そしてそうなる前に異動してしまおうとも。
けれど勇介の予想に反して思った以上に進行は早く。食堂での同僚との一件からたった2日で。この冒頭のやり取りへと。

あらら、と声を漏らす青雉に勇介は真顔で続けた。

『ご自分の仕事はご自分でなさるべきです。元よりその書類は大将にしか処理出来ないものです。文官ごときが勝手に判断して判を押して良いものじゃないでしょう』
「いやぁそれは勿論分かってンだけどね?流石にこんだけあると大変だし」
『己の仕事もその責も負えないというのなら辞職なさったらどうですか』

へらへらと笑いながら話す青雉にただ静かな怒りが沸き上がる。出来るならあの顔面にグーパンをお見舞いしたい。自然系だから物理攻撃なんて効きゃしないが。いや、今なら武装色の覇気を纏えそうな気がする。周りの人間がどれだけ堪え忍んでいるか。この人たちは身をもって知るべきなんじゃないか。

「手厳しいねー。まぁでも、それもアリかな」
『は…?』
「だって大将なんてやってたら××に会いに行けないじゃない?ただでさえライバル多いんだからさー」

その、青雉の後先を考えない発言に勇介は静かにキレた。分かりました、と息を吐くように返事をし。冷徹な言葉を散々吐かれていたにも関わらず、その平坦な返し。以前の青雉であれば機敏に察するのだが生憎。今の青雉には大きくても違和感には気付けない。
か彼女が来る以前の青雉にもサボり癖はあったが、やる時はちゃんとやっていたし部下にも気を配れる人だった。のらりくらりとしているのに戦闘ともなれば一部の隙もない。
それが、どうだ。これでは大将の名折れではないか。

勇介が自分の仕事は自分でと突き放したのは勇介の仕事が増えるのを嫌がって。というのもあるが。この人なら責任持ってやり遂げると信じていたからである。
もうダメだ。もうこの人には何も、期待、しない。

「やった。じゃあ勇介よろしくね。俺 ××のとこ行ってくるから!」
『…はい。いってらっしゃい』

喜色を前面に押し出してうきうきと青雉は窓から飛び出してゆく。それを最後まで見届けずに、勇介は自分のデスクに戻ると一番上の引き出しから“異動願”と書かれた封筒を取り出した。

『やってられるかボケ』

元帥に叩きつけよう。いや、多分出来ないけども。

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