あの泣く子も黙る三大将に取り合われている少女。残念ながら勇介はその名前を忘れてしまったが、彼女はトリップ少女だった。何故分かるか? 本人がそう言っていたらしいし勇介も彼女がここマリンフォードにやってくる瞬間を目撃したからである。

朝から鬱陶しいぐらいの曇り空だった。それを割り、太陽の光と共に降り立ったのだ。最初あまりの神々しさに天の御使いかと思ったが口を開けてみればただの痛い女だった。

「私は異世界の人間です」「私はみんな知ってる」「ここは漫画の世界で」「でも私はみんなちゃんと生きてるって分かってる」

それを人伝に聞いたとき勇介は両手で顔を覆って『アイタタター』と呟いた。折角自分と同じ境遇の人間が来たと思ったのに。嬉しかったのに。こんなイタイ子だとは…。
幸い、前世の自分の周りにはこういう女は居なかったがテライケメンな友人がこういう女に纏わりつかれてグッタリしていたのを見ていたから。面倒くささは知っている。

どれだけ断ろうと冷たくあしらおうと引かないので悩みに悩んだ末勇介とホモップルですー!という設定をでっち上げて。それで迎えた修羅場は今ではいい思い出だ。そのでっち上げが事実になったのも同じく。ちなみに勇介が上である。

『(男同士ってのもイイもんだったなー。でも女の子のやわっこい肌とおっぱいも捨てがたい)』

前世の経験が影響して今世では立派にバイになってしまった。結婚して子どもが欲しいという気持ちがあるから女とそうなるつもりだが、男相手も止められない。
非生産的で割り切った関係を理解し応じてくれるパートナーを探すのが勇介のここ暫くの目標であった。この男、なかなかにクズである。

『クザン大しょーう!そろそろ仕事して下さーい!』

新しいコーヒーも淹れ終わったし、仕事の続きに取り掛かろう。しかしその前に一応。一応上司に声は掛けておく。無論これに青雉が応えるとは思っていない。ポーズだ。声は掛けましたよ、という。
無視する訳にもいかないのかこちらを見上げた青雉は至極面倒そうな顔をしていて。ひらひら手を振って顔を引っ込めた。

天の御力か。悪の魔力か。

彼女が来てからというものの三大将は目に見えて落ちていった。その、トリップしてきたという彼女にだ。確かに可愛くはあるが傾国という程ではない。単純に美しさで言うなら七武海のボア・ハンコックの方が遥かに上。にも関わらずだ。性格的な面を考えるなら彼女のほうがとっつき易いかもしれないが…。
傾倒するのがキャラばかりとなると何かがあると感じてしまう。

けれど勇介には関係の無いことだった。
幸いな事に元帥や大参謀は無事なのだ。海軍としての業務が滞ることもなければ、勇介へ支払われる給与が滞納されいうこと事もない。上の仕事が溜まろうともその責任が自分へ負わされる訳でもない。肉体面精神面生活面において勇介が被害を被ってはいないのだ。
自身の安全は保たれる。ならそれで。

『…異動願いでも出そっかなぁ』

しかし面倒事が増える前に東の海にでも行ってしまおうかと考える自分がいて。あーあ悠々自適な生活を送っていたのに。



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