『ンなビビらなくても取って食うなんてしないよ。無理矢理ヤんなくても相手してくれる子いっぱいいるしぃ』
「…………。」
『(あ、警戒Lv.が上がった)』

あんな事があった後に加えていい噂を聞かない男子がふらふら近寄ってくるのだ。それも当然。逆にこの状況でよく知らぬ同級生を受け入れたら考えものだ。天真爛漫で誰にでも分け隔てなく接する天使のような女の子。そう誰かが言ったのを覚えているが、流石にこんな時までそれを発揮するほどではないらしい。
地面に散らばった教科書を一冊拾い上げた。

付いた土を手で叩くように払う。まだ何となく汚れてはいるがまあいいだろう。彼女に近付きながら1つ1つ教科書や文房具を拾って行く。しかしよくもこれだけ撒き散らしたものだ。あの女、結構力あるんじゃないか?

『はい。これで全部かな』
「あ、ありがとう」
『いやー京子ちゃんも大変だねぇ。あんなキチガイビッチに絡まれちゃって』
「…見てたの?」
『うん。フラフラしてたら辿り着いちゃってさー。あのビッチ急にキレんだもん。マジ引くわー』

頭と股の緩い女の子は大好きだけどアレは無い。と心の中で呟いた。京子の頬に目をやれば赤く腫れていて。触らなくとも熱を持っているのが分かる。
随分な事態になってしまっているからか京子のテンションはかなり低い。怒りというよりはショックのが強いのだろう。
しかしさっきは悔しそうに唇を噛んでいたと思ったが。

「見てたのに、助けてくれなかったの?」
『え? うん。だって割って入る雰囲気じゃなかっ…』

言葉を続けられない。何故なら緩く締めたネクタイをがしりと京子に掴まれたから。苦しくはないけれど、予想だにしない行動に目を剥く。そのまま京子を見れば爽やかなほどに笑んでいた。

誰もが見惚れるような愛らしい笑顔。なのに、どうしてだろう。うすら寒く感じるのは。

「見てたのに、助けなかったんだね」
『いや、それは』
「ね?」
『…うん』
「じゃあしょうがないから、助けてもらわないと」
『えぇぇ』

にっこり笑って有無を言わせようとしない京子に頬が引きつる。直接話したのは今まで無かったけれど、こんな子だとは聞いたこともない。上手く隠していたのかそれともあの女のせいで開花したのか。
修羅場に巻き込まれるのは嫌なんだけどなぁ。呟くのを堪えた。

「私だっていつまでもイイ子ちゃんじゃないもの。この頬のお返しくらいはしないと」
『…強かな子はスキだよ』

面倒だとは思う反面どこかゾクゾクとするのを感じる。

甘い言葉を囁いて、手を差し伸べて。縋りたくなるように助けてあげようと考えていたのにとんだ展開だ。やれやれ。嵌まりそうな予感がしてため息が出た。


花の棘



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