ギリ、と唇を噛み締める瑠奈とは対照的に微笑む京子。同等の立場だというのにどうしてか瑠奈は負けたような気がした。

「どうするつもりよぉ…!言っとくけどアンタの弱味、瑠奈だって握ってんだからねぇ!」
「んー、私としては別にそればら蒔いてくれてもいいんだけどな。そうしたら一気に彼は私のものになるワケだし」
「は…?」
「あのね、何か勘違いしてるようだから言うけど私別にみんなに愛されたいとか傍観したいとかそういうの考えてないからね」
「そんな、じゃあなんで」

そんなに原作と性格が違うのか

「…よく分かんないけど私は正真正銘笹川京子だよ。1人の男の子を想う一途な、ね」
「一途…」
「そう。…今日のことは2人の秘密にしよっか。お互い弱味を握りあうような形になったんだし、邪魔しようもないでしょう?瑠奈ちゃんのすることしたいことに手も口も出さないから、私にも何もしないで」
「分か、った…」

言葉に詰まりながらも承知する瑠奈にニッコリと笑うと、京子はじゃあねと言ってその場を離れた。
呆然とこちらを見る瑠奈からの視線を振り払うように角を曲がり階段へと。そこに人影が見えて驚き足を止めるが、誰か分かるとすぐに笑った。

「勇介くん…」

そこにいたのは紛れもなく、昨日準備室で京子とセックスしていた男子生徒。何とも言えない仏頂面で京子のことを見ていた。普通ならそんな風に見られていたならば腹を立てるかどうしたのかと心配になるか。けれど京子はニコニコと笑うだけ。
彼こそが京子の想い人。肉体を使ってまで手に入れたい人。どこか嬉しそうに笑う京子から目を逸らして、勇介は手を差し出した。

『…忘れもん』
「リボン? どこにあったの?」
『俺の鞄の中。つーか、ワザと入れてったろ』
「うふふ」
『本気やめてくれ…。彼女にバレたらとんでもない事になる…』

バレればいいのに。とは口にしない。
京子の恋してる人には既に恋人がいる。もちろん京子以外で。知った時には気が狂うほどの嫉妬を覚えたものだが、すぐにそれを抑えつけ肉体関係を結べるよう考えた。勇介に恋人が出来たとて簡単に諦められるような軽い気持ちではないのだ。
それに何よりズルい。
だってそうだろう。自分の方が彼女なんかよりもずっと前から勇介のことが好きだった。愛してる。振り向いてもらえるよう努力も怠らなかった。なのに。人の気持ちも努力も知らないでサラリと奪っていった。相手を殺してしまいたかったが、そうなれば最後。本当に勇介とは会えなくなってしまう。それは嫌だ。だからこそ殺意を抑え込んで尚行動した。初めての彼女を手に入れた勇介にそっと甘く囁いたのだ。

「私とセックスの練習しない?」

いざ彼女と事に及ぶとき何をどうすればいいのか分からず右往左往するのはカッコ悪いだろう。男としてリードするためにも練習してみても悪くはない。
それに経験人数が多いほうが男はステータスになるだろう。それもあの並中のマドンナと称される笹川京子が誘うのだ。断るハズもない。もちろん京子とて肉体関係から始まるというのは不本意である。
けれど構わない。自分の初めて勇介にあげられたし、何より彼の初めても自分が貰えた。その時の喜びは言葉に表せられない程だ。

「勇介くん、今日はシないの?」
『昨日シたばっかだろ。毎日ヤってたら体壊すぞ』

京子を労るような言葉に心を暖かくさせるも束の間


『……それに、今日はアイツと帰るからダメだ』
「………。」

勇介が背中を向けてくれていて助かった。きっと今自分は氷のような表情をしていることだろう。あぁ、もっと、もっと多く彼と体を繋げなければ。そうしていつの日か、自分の体無しでは生きられなくなればいいと願って止まない。
見ていろ、必ず奪ってやる。


蝶のモラル

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