「きょーぉーこちゃん!」

その翌日のこと。
またしても人気の去る放課後にどこぞへと行こうとする京子を呼び止めた瑠奈。特別教室の多い階にいるわけでもないのにどうしてかこの廊下には京子と瑠奈の2人きり。他人に聞かれたくない話をするのにはもってこいだ。
幼子であろうとも感じ取れる不穏な空気。臆することなく京子は微笑みながら振り向いた。どうせ昨日の事だろう。困ることは何もない。

「なぁに瑠奈ちゃん。私に何か用かなぁ」

振り向けば自分と同じように笑っている瑠奈。互いの思惑など分かりきっているクセにこうして笑いあえるのだから女は恐ろしい。

「京子ちゃん、どうして昨日屋上に来てくれなかったのぉ?瑠奈ずぅっと待ってたんだよぉ」
「うふふ、やだなぁ どうして なんて。昨日見てたクセに。私と彼がセックスしてるとこ」
「…アンタ、本当に“笹川京子”なの…?」

ニコニコと笑いながら何の恥じらいもなく、セックスだなんていう単語を口に出す京子を訝しむ。彼女でなくともこの年頃の女の子ならばそういった性的な言葉は聞くのも恥ずかしいであろうに。興味を持つことはあってもこんな風にさらりと人は言えない。少なくとも自分の知っている笹川京子はそうだ。
……そうか。もしかしてこの女が

「傍観主ってやつね…!アンタの好きにはさせないんだからぁ!」
「瑠奈ちゃん?何を言ってるの?」
「転生して笹川京子に成り代わってまで逆ハーになりたいだなんて汚い女!そうはさせないわよぉっ」

そうしてぎゃあぎゃあと瑠奈は喚き散らす。京子が自分と同じところからこちらに転生してきて“笹川京子”というヒロインポジションのキャラクターに成り代わったのだと決めつけて。根拠などありはしない。だってあまりにも違うのだ。自分の知っている笹川京子と。
あの腹が立つほどの純粋さ、愛される天然ぶり。目の前の彼女にももちろんその部分はあるけれどこんな一面はない。上手く演技していたせいでまんまと騙されたがついにボロが出た。今ここで叩きのめしてやる。ニヤリと笑って、ブレザーのポケットに隠していたスマホを取り出した。

「どうせ昨日の男も駒に使おうと思って股開いて取り込んでたんでしょう!?アンタの目論見ここでコレでお終いよぉ!」
「…………。」
「ふふふ、ぐうの音も出ないって感じ?嬉しいわ、アンタみたいな駒を持てて!さて、どうやって使おうかなぁ。やっぱりここは王道的に嫌われ?でもそれも王道すぎて飽きちゃったなぁ」
「…………。」
「大体まず存在事態がウザいだよねぇ。キャラは瑠奈だけを愛する道具なんだからぁ、私以外の女キャラはマジいらないんだよねぇ。…うん、やっぱ嫌われにしよぉ!」

黙る京子を尻目に1人楽しくベラベラと話始める瑠奈。悔しそうに、苦しそうに表情を歪めるでもなくただじっと京子は彼女を眺める。
それを微塵も不思議に思わず喋り続け。せめてもう少し知恵があったならこの先も瑠奈の望む展開になっていたかもしれない。にっこりと笑う瑠奈。その手にはカッター。次の行動を容易に想像出来た京子は瑠奈が動くよりも先に手を打った。
いや、打っていた。

「瑠奈ちゃん、これなーんだ」

そう言って取り出したのは瑠奈と同じくスマホ。しかしその画面には何も映っていない。あるのは赤い印とノイズが走るような緑のライン。声や音に反応して波を作るそれに見覚えがあった。

「まさか…っ」
「そう、スマホの録音機能」

表示される録音時間はちょうど5分を過ぎたところ。すなわち、2人の会話の始まりから今までを録っており。つい先ほど彼女が散々口走っていた事も当然その中に録音されていた。顔を青くさせてももう遅い。一方的に優位に立っていた状況は瞬く間に終わり、対等な関係へと。ただしお互いがお互いの弱味を握っているという状態でだが。


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