津々四は潮風にその身を晒しながら微動だにせず、島を見つめていた。傍らにはエース。彼も島をただ静かに見つめていた。言葉を交わせるはずもなかったが互いの気持ちは一緒だった。

六月一日は無事だろうか。

ことこういう非科学的な事象に関して彼女の右に出る者はいない。だから何も心配はいらない。のだが部屋でのんびりと待ってもいられず。全ての仕事を放り出して、こうしてここにいる。あれから2時間ほど経っただろうか。何をしに単身島に入ったのかは聞かずじまい。危ないことをしているのではないだろうが…。まああの管狐が一緒なんだ。平気だろう。
そうは思ってもこうして船縁に立っている訳で。せめて何か飲み物でも取りに行こうかと思った瞬間。

ず…、どんっっっ

何かが落ちるような音と衝撃波のような地響きがモビー・ディック号を襲った。

「っ!!?」

咄嗟に縁にしがみついて転倒を免れるが他のクルーは大わらわである。何が起こったんだと発信源であろう島へ目をやれば、言葉を失った。
源である島の中央から波紋が広がるように島に緑が。色が。風が。香りが。音が。息吹が
。戻ってゆく。命が息を吹き返す―…。

そのあまりにも神がかった光景に誰も彼もが言葉を無くし立ち尽くす。今目にしているのは生命の再誕。神のみが許されている行いそのものだった。木々には葉が茂り風に舞い。鳥は囀ずりながら愛を囁き。小川は踊るようにして大海へと辿る。波紋はやがて砂浜へ達し、白に近い灰色だったものを金色へと染め上げる。
その幻想的な現象にエースが動けないでいると耳に羽ばたきが届く。島を見つめるしか出来ないエースの視界に飛んでゆく鷹が1羽、入り込む。ハッと我に帰り地を蹴った。

「あっ、おいエース!!」
「降りるなって言われただろ!」
「多分もう大丈夫だ!六花ンとこ行ってくる!」

待てと言われた津々四が行ったのだ。己も行っていいだろう。怒られても、ちゃんと謝れば。

津々四を見失わないよう注意しつつ走る。足場の悪さも何のその。悪辣な環境で育ち、更に海に出ればその何倍もの過酷な試練が牙を向けてきたのだ。これぐらいどうってことはない。
うねる木の根をヒョイと飛び越え棘の生えた蔦を屈んでかわし。そうしながら津々四を追って行けばすぃと下降する。どうやらそこに彼女がいるらしい。同じようにそこへ向かえば光の射し込む、拓けた場所に出た。急な光に目を眩ませながらもどうにか人影を探そうとしていると聞いた声がした。

『エースくん?』
「っ六花!?」

パッと顔を上げれば木に寄り掛かる彼女。丁度ピントが合うように目も治り、その全貌を確かめることが出来た。怪我は無さそう出し疲弊も感じられない。若干汗をかいてはいるがそれぐらいだ。
本人も暑いのか手で扇いでいる。出立する前と何ら変わらない彼女の肩には当然のように津々四が居り。三ツ蜂も、その足元に行儀良く座っていた。動物園みたいだなと一瞬思う。

『おうコラ、降りんなって言ったはずだぞ』
「悪ぃ!でも津々四が飛んでったし、もう大丈夫かと思ってよ!」
『もー…。これだと他の人らも降りてくんなぁ…。』

やれやれとため息混じりに言いながら、腰を上げる。そこでふと思い出したかのように俯かせていた顔を上げた。

『エースくん、エースくん』
「 ? おう」
『あちら。この島の新しい神様&ご本尊ね』
「お、おぉ…」
『っつーわけで君ここにいる間能力使うの禁止ね』
「なんでだよ!?」

当たり前だ。神降ろしをし新たに生まれ変わったこの地をいきなり焦土と化してたまるか。同意するように若木の枝がわさりと揺れる。
大気が息づいていた。




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