太陽が沈み月が煌々と輝く夜半。まぁるい月が海面に写り月の道を作っている。実はあの道に飛び込めば“あちら側”に行けるのだと、一体どれ程の人間が知っているだろう。他にも同じく月の…いや、今はこの話をしている場合ではない。機会があればまた向こうに行って、酒を貰ってこよう。人用ではないそれは非常に異常に旨い。飲み過ぎると本気で毒だし、更に飲み続ければ人でなくなるが。用法容量を守れば良いのだ。

『(手土産の1つもないのが、ちょっと申し訳ないね)』

考えながら自分の身の丈4つ分はあるんじゃないかとすら思える扉を見上げる。ここは白ひげ海賊団の船長室。ニューゲートの居室だ。だから扉も大きくて然るべきなんだが、これてはまずドアノブに手が届かない。なんてこった。
けどそれではこの船のクルーの大半が同じことになる。その為か脇に普通サイズの扉もあって。ありがてぇとその扉をノックした。

「何だぁ」
『夜分遅くに失礼致します。六月一日にございます。お話がありまして伺いました。お顔拝見してもよろしいでしょうか』
「あぁ、構わねェよ」

海賊に対するにしては大分畏まった話し方。海の無法者どもを相手取るならもっと横柄で威圧的な物言いでも許されるだろう。
しかしそんな態度を取っていい相手ではないし、そもそも彼女の性格的にそういうのは難しい。そうすべきと感じたら幾らでも敬い、礼節を重んじる事は出来るがその逆というのは。きちんと育ててくれた両親に感謝。

許可を頂き、1拍開けてから扉を開く。そして目に飛び込んでくるのは規格外の家具の数
々。自分がおかしいのかと思いながら視線をずらせばこれまた規格外のベッドに座るニュ
ーゲート。その手には酒。
確かナースのお姉さん方に止められていたような気もするが…。客の己が言うことではない。というよりも己も酒飲みだから体を壊していたとしても飲みたくなる気持ちは判る。カラン、とグラスの中の氷が鳴く。

「随分とまぁご丁寧な話し方だなァ。普通でいいンだぜ?」
『いえ、こちらは乗せてもらっている身ですので。何より友人の親御さんに対し礼節を欠く真似は出来ません。』
「その友人に家族にならないかと誘われてンだろう」
『…お耳に入っておりましたか』
「おれに許可を取りに来たからなァ。口説けるンならな、とは返したが…。どうだ、落ちそうか?」
『生憎、手前もこれで忙しい身ですので…。今しばらくは彼の誘いに乗れそうにありません』
「ならその内ちゃんと答えてやるんだな?」
『はい。成さねばならぬ事が済んだなら。お答えしようと思います』

それまでに忘れてくれたらラッキーだが、難しいだろう。エースは以外と執着心が強い。こちらがハッキリNO!と言ってもそう易々とは引き下がらない。しつこい男は嫌われるぞ。粘り強いと言えば聞こえは良いが。そのくせ相手が本気で嫌がっているのであればすぐに身を引くのだから抜け目のない男だ。

彼の事は一先ず置いといてまず用件を済まさなければ。怒るだろうか。いや、こんな事で怒るような狭量ではない。まずこの先の展開を視っているからどっしりと構えていられるのだが。それが無くとも彼女は度胸がある… というよりは色々と達観しているのだろう。緊張も恐怖もない。
未来を見据えられる能力とこれまでの人生経験から大いに図太くなった神経も相俟って、世界最強と恐れられるニューゲートと目を合わせる事に怯みもしない。それにニューゲートがゆるりと口角を上げた。

会話が途切れたところでニューゲートが用件を促す。1つ頷きながら言葉を舌に乗せた。

『次の島には上陸しないで頂きたい』





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