生まれて初めて見るそれらは本当に衝撃的で魅力的で。息苦しさも忘れて見続けてしまった。きっとあれを魅入るというのだろう。

今まで数多の宝を見、手に入れ。多くの美女と触れ合ってきたがこんな風に心奪われる程のものではなかった。だというのに。そうして何時までも空を見上げて泉から出てこようとしないエースに不意に声が掛かった。

『お兄さん、何時までもそんなとこにいたら体ふやけちゃうよ』

完全に虚を突かれたエースが大きな水音を立てて振り返った先に居たのが彼女であった。今日と衣装は違うが同じ真っ青な服を着ていて。そんな彼女が蒼を揺らしながら教えてくれたのが此処は彼女の夢の世界で、何らかの事由があって自分は紛れ込んでしまったらしい。

そんな馬鹿な。そんな事がある訳がない。きっと"そういう"夢を見ているのだろう。他人の夢の中に入る夢、というやつを。しかし。けれどでも。脳が自ずと理解する。嗚呼そうなのかと。偽りではなく此処は夢の世界なのだと。同時に肌で感じるのは彼女はとても遠い世界の人間なのだということ。裏社会とかそういう意味ではない。

思わず悪態を吐いてしまったエースに気を悪くするでもなく、にやりと笑って女は煙管に口付けた。青々とした草が風に吹かれ極彩色の波を立てる。相変わらず美しくて不可思議な草原だ。

『今日は随分とご機嫌ななめだね。怖い夢でも見たかい』
「そーゆーのは最近見てねぇよ。つかガキ扱いすんな!」
『ふは、そいつぁ失敬』

歳はいくつか、どこの出身なのか等という基本的な話をしたことがない為どちらが歳上なのかは判らない。が、近いことは確か。2つ3つしか違わないであろう女に子供扱いされるのはどうにも癪だ。そうやってムキになって怒るところが子供っぽいと兄達にからかわれているのだけど。それを忘れて声を荒げれば可笑しそうに女は笑う。しかめっ面になるのか判った。


ー彼女と夢で逢うようになってからというものの、エースは悪夢を見ることが無くなった。少しずつ少しずつその回数は減っていき。出会ってから僅か1ヶ月でぱたりと。その変化に安堵したのは言わずもがなエース自身である。当然だ。幾らあの男の子供であるという拭いようのない事実に罪悪感、嫌悪、焦燥そして恐れを抱いていたとしても断罪されるのはごめんだ。
今では家族との夢を見たりして、週に一度は彼女に会う。

『さ、そんな所に突っ立ってないでちょいと晩酌に付き合っておくれな。良い酒を手に入れたんだ』
「おっいいな!俺もこないだ戦った奴らの話してやるよっ」
『へぇ、そいつぁイイ肴になりそうだ』

いつの間にか女の傍にはテーブルがあって。その上には酒と食べ物。夢の中で酒を飲んだって味なんか。そう思っていたのはとうの昔。今では彼女の用意する酒が楽しみで仕方ない。彼女は話し上手で聞き上手で喋らせ上手でもあるから良い話し相手になるのにそう時間は掛からなかった。


今夜で数えて23回目の夢の逢瀬。
未だ彼女の名前は知らない。



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