海の音を聞きながら眠りにつく。この世に生まれたからには海とは切っても切れない仲になるけれど。だから、だろうか。やはりこうして海の音を聞くと酷く心が落ち着いた。瞼が落ち心がゆっくりと沈んでゆくのが半覚醒状態でも判った。今日は彼女に会えるだろうか。話したいことがあるんだ。

もう少しで眠れる。そんな時急に意識が覚醒へと導かれる。ああクソ、あと一歩で夢の世界だったのに。ぱちりと仕方なしに目を開ければ宇宙のような夜空と青々とした草原。彩り鮮やかな鳥が飛んでいる。どうやら夢に落ちたらしい。ほっと息を吐く。その上望んでいた彼女の夢の中だ。急に気分が高揚しだす。わくわくと高鳴るその感情は初めて訪れる島に上陸する時と似ていた。

「アイツもう来てっかなー」

いつもはこうしてエースが突っ立っていれば背後を取るように静かに現れ声を掛けてくれる。だがどうにも今日はまだ来ない。彼女よりも早く来てしまったのだろうか。だとしたら初めてだ。珍しいとかの話じゃない。

此処で待っていれば自ずと向こうから見つけてくれるだろう。何せここは彼女の夢の中。自分以外の誰かが居れば判って当然。そしてそれを確認するのも。そう判っていても体が自然と動き出す。じっとしてるのは性に合わない。待つぐらいならこっちから捜しに行ってやる。
此処は何度か探検した事がある。大丈夫。彼女の機嫌や気分で多少様相は変わるけれど、今日のこの感じならニュートラル。

落とさないようオレンジのテンガロンハットを手で押さえ、柔らかな草原の中を走る。まるで布のような肌触り。人を傷付けるものは此処には何一つ無い。彼女は何処にいるのだろうか?正直見つけてもらってばかりだったから居場所の検討なんてつかない。朽ちた廃墟のような遺跡か、それとも水晶の花が咲く森か。意外に何でもないような所に居たりするかも。もう何度も会っている彼女だがその性格を全て把握している訳じゃあない。掴みきれないというか掴ませてくれないというか…。

それを追うのが楽しいとは、癪だから言ってやらないけど。

「どこに居んだよ…。このままじゃ陽が昇っちまうじゃねーか!」

話したいことがあるんだ。きっとつまらないだろうけど、それでも聞いてほしい。恐らくまだまだ朝にはならない。焦りがそう感じさせるのだろう。しかし夢と現実の時間経過は違うじゃないか。こうして走り回ってる間に外では何十分も経っているかもしれない。

見つけたい。見つけたいんだ今日は絶対に俺が。歯を食い縛りながらも目を凝らして周囲を見る。
と、過ぎ去る森の中で何かが目を惹いた。

「なんだ…?」

呟きながらも立ち止まり、一呼吸置いて今度はそちらへ走り出す。彼女のような気がする。勘でしかないが。しかしこのエースという男はそういう直感に長けていた。野生の勘というやつか。




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