度重なる衝撃に足の踏ん張りが段々効かなくなってくる。エースの支えが無かったらこうして甲板に居続けることは出来なかったろう。
それならばとっとと自室に逃げ込めばいい話。けれどここに居て、成すことを成すのが本日一番の彼女の仕事。この運命を切り開いたのは他でもない自分自身なのだ。己でどうにかしなくてどうする。

まぁそれに伴い今後の展開が非常に面倒な事になるが仕方あるまい。ただ面倒なだけならば多少は我慢しよう。

「げっ、あれは…!」
「全員伏せろぉーーーっ!!!」

追い掛けてきている海軍の船。それの甲板辺りから一度光が瞬く。ボルサリーノだろう。悪魔の実の力を使って攻撃してこようと言うのだ。確かに砲弾を無駄にするより破壊力はあるし被弾率も高くなる。だがしかしこっちとしては堪ったもんじゃない。砲弾を当ててやり過ごそうにも光の速さでやってくる攻撃など見切れる訳が。

どうする。相手が大将というのがとてつもなく厄介だ。エースが眉間と拳に力を込める。炎上網か鏡火炎で僅かでもダメージを軽減させるか。だが大将相手に一瞬でも視界を遮るのは自殺行為。それにいくら修行したからと言ってこのモビー・ディック号全てを覆える程の炎はまだ出せない。本当にどうする。
己の力不足をひしひしと感じ唇をきつく噛み締めた。けれどボルサリーノはそんなん知ったことではないと光線を放った。

『ちょいと失礼』

もぞりと彼女が動く。衣服のポケットに忍ばせていたであろうビー玉のようなものを宙へ放る。何を、と誰もが思った。けれど刹那。透明な膜のようなものがモビー・ディック号を包み込む。ぼんやりと何かがあるようにしか見えないそれ。そこからの風景はめひてレンズ越しに見る世界のようで。

これか一体何の役に立つ。そう考えた者も少なくないだろう。だがそれは大いに役に立った。ボルサリーノの放った光線を弾いたのだ。これには皆驚きを隠せない。ばちん!と大きな音を立てて拒絶する膜。結界。
海軍船の船首に立つボルサリーノは笑みを浮かべる。それは決して表情のままの感情ではなかった。続けざまに足を上げる。それを見た六月一日もまた胸元に手を入れた。

『おいで三ツ蜂』

呼び出したるは白毛三尾の管狐。万年筆と同じサイズの銀筒から出したとは思えないほどそれは巨大で。モビー・ディック号に引けを取らない程大きい。マスト全てを跨いで船体を足場にしているのだから。突如現れた巨大すぎる獣。白ひげのクルーも海兵も声を上げて驚いている。エースもこれには驚いたようで、口をあんぐりと開けて三ツ蜂を見上げている。説明している暇はない。今はこの状況を打開するほうが先決。

『三ツ蜂、源の尾一振り』

さして大きくもない声量だというのに三ツ蜂には届いたらしく、3日本ある尾の内の1本を軽く揺らすとそれを思いきり振った。すると何という事だろうか!それは海を割り海面を激しく隆起させる。一直線に海軍へと伸びる攻撃はあわやという所で船の真横を通りすぎ。だが余波が襲う。波に煽られ転覆しかねない勢いで揺れる。
いくら海軍大将と言えども人間。加えてボルサリーノは悪魔の実の能力者。海に落ちればまず助からない。畳み掛けるなら今だ。

『次の尾、二振り』

鳴き声も唸り声も上げず三ツ蜂は今度は真ん中の尾を揺らす。また何かとてつもない攻撃を繰り出すのかと身構える中尾を振る。ゴォッと風が巻き上がった。三ツ蜂の尾によって生み出された突風はマストに張られた帆を膨らます。風を含んだ帆はされるがまま、船を動かした。

荒波にてんやわんやする海軍を尻目にモビー・ディック号はぐんぐん速度を上げ。海軍との距離を広げて行く。

『さようなら、また会う日まで』

バイバイと手を振りゃあ。ボルサリーノと目があった気がした。




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