この流れはずらせないし変えられない。この島のログが溜まるのは何があっても4日は掛かるし、それより前に船を出せば遭難必至。来ると判っていていつまでも留まる理由もない。早まらせる事も遅らせる事も出来ず、ログが溜まったその瞬間出る以外道はなかった。海戦は免れないだろう。

恩人をわざわざ海軍に渡す訳もない。それに相手は大将と来たものだ。俄に浮き足立つのもしょうがない。相手にとって不足なし。来るなら来い。

「殆どのクルーが戦闘準備を整えてある。後は来るのを待つだけだ」

本当に来るのかと疑っているのが伝わってくる。まぁ疑うのも無理はない。ビスタは彼女の実力を、その驚くべき的中率を知らないのだ。いやそもそも占いというもの自体信じていない。それは彼だけに限らずクルーの大半がそうだった。
疑われて悲しい。なんて気持ちはこれっぽっちも浮かばない。占いなんて非現実的なものはいつの時代も疑われて白い目で見られる。実際彼女もこれまで幾度となくそう思われ言われてきた。口先だけなら何とでも言えるとも、酷い暴言を吐かれたりもした。

当たるまで当たるかどうか判らないのが占いだ。

エースも出会った当初はかなり疑っていた。けれども一度二度三度と当たるうちに信じるようになり。今では疑いもしない。そこには彼女の人となりも加わってだが。
それがあって、そして六月一日を信じているから庇わない。彼女は自分で何とかするしこればかりは体験しないと判らない。

『そっか。じゃあエースくんそろそろ甲板行こっか』
「おう。海に落ちるなよ、助けらんねーからな」
『大丈夫、そうなったら心強い味方に助けてもらうから』

2人の会話にビスタは目を瞬く。流れから察するにもう間もなくボルサリーノが来るのだろう。驚くべきはそこではなくそれを当たり前と受け入れているエースである。

確かにエースは人懐っこくて誰にでも話し掛け部下の面倒も見れる気のいい奴だ。しかし決して誰でも簡単に信じる訳でもない。なのにあっさりと。
いや、自分達の知らぬ間に逢瀬を重ねていたというのだ。それがあって信ずるに値する力量・人物であると。自分もこの目で見、体験したらエースのようになれるだろうか。帽子の鍔をくっと下げるとマントを翻して2人の後を追うように甲板へ向かった。長い通路を歩いて漸く甲板へ着く。まだ大将は来ていないようだと思ったその時。

「15時の方向!海軍が来たぞぉーーッ!!!


見張り台から大声が響く。同時にその方角を全員が向くと一気に緊張が走る。帆を広げた海軍の船がこちらへと迫ってきていた。

双眼鏡で海軍の様子を伺えばそこには黄色いスーツの男。間違いない。大将黄猿だ。それをまた大声で伝えればバタバタとクルーが忙しなく動き出す。大砲の準備に島近海から早々に脱出するためにこちらも帆を広げる。
慌ただしくしながらも皆が思うのはただ1つ
。彼女の言葉が真実だったということ。もっと言えば占いが当たった。来るかどうかも怪しく、来たとしても率いる人物が違うかもしれないと考えていたのに。当たるか当たらないか。そんな賭けすら出来ない程だ。

しかしこれは。考えを改めなければならない。

「おー来た来た… あっ」
『えっ』

手で目元に影を作るようにして海軍を眺めていたエースが声を上げる。するとすぐ様六月一日の腰に手を回し。驚きの声を彼女が溢すと同じくして砲弾がモビー・ディック号に撃ち込まれた。
幸いそれは船に直撃はせず、手前の海面に着水。だがその衝撃は大きくぐわんぐわんと揺れる船。そして上がる水飛沫にエースの行動の意味を理解する。助かったマジで助かった
。エースの支えが無ければ今ごろ甲板を転がっていたに違いない。

『マジ…!マジで助かったありがとう!』
「大袈裟だなコレぐらいで。多分今のは挨拶だからまだまだ来るぞ」
『うーわ最悪じゃねーか』
「どうする?部屋戻ってるか」
『いんや、ここに居なきゃなんねーから居るよ』
「判った」

ならば彼女のことは自分が守ろう。ボルサリーノが乗り込んで来るとは思えないが何かがあってからでは遅い。恩返しをすると決めたのだ。

―クルーが慌ただしく船内を、甲板を行き交う。こちらもお返しとばかりに砲弾を撃ち込めばそれが開戦の合図。お互いに撃ち合い、海面に当たり大きな水柱を作る。そのせいで甲板は水浸し。どうにか水を被ることも砲弾の直撃も免れてはいるが…。いずれは、というところだ。あちらは帆をいっぱいに広げ風を受けてこちらへと真っ直ぐ向かってくる。
このままだと白兵戦は間違いないなと誰かが呟く。その声はどこか楽しげだった。

流石海の荒くれ者ども。こういった血生臭いことでワクワクするとは。嫌そうにするのはこの場では六月一日だけ。こんな事でアウェイを感じたくはなかった。




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