「荷物はこれで全部か?」
『うん。でももうちょっと減らしたほうがいいかな?』
「いや、これでイイだろ。あんまり減らすと今度は足りなくなる。海の上じゃ補充も出来ないしな」
『なるほど』

足元には大きなトランクとキャリー。彼女の荷物だ。これからこれを持ってモビー・ディ
ック号に乗船するのだ。借りていた家も解約したし、家財道具も売り払った。玄関先に立ち中を覗けばがらんどうの部屋。ちまちま集めたインテリアもみんな売ってしまった。少し惜しいが旅をする上では邪魔にしかならない。ずっと此処に腰を落ち着かせていられれば良いのだが、流石にそうもいかない。
もう間もなく海軍大将黄猿が再び軍艦引き連れてやって来るからだ。それですら島の迷惑だというのに。

大きめのトランクをエースが。キャリーを六月一日が。その手には鳥籠も持たれていて。視線をやれば津々四と目が合い、小さく鳴かれた。

海での旅は別に初めてじゃあない。しかしそれは極僅かな、島と島を渡るだけのもの。これからは島に居ることのほうが短くなる。ずぅっと船の上だ。不便も不満も出てくるだろう。それでも置いて行きたくはなかった。違う世界にまで連れてきておいて根なし草になるからと。捨てて行けるほど非情ではない
それにここの動物たちは彼女が元居た世界よりうんと強い。野に帰して無事でいられるか。ならば。

『可愛い子。その命尽きるまで、共に来ておくれ』
「ピィー!」
「懐いてンなぁ…。なぁ、コイツの名前は?」
『津々四だよ。よろしくしたって』
「おぅ! さ、もう行こうぜ」
『はいな』

さて、しばらくは楽しい旅になりそうだ。しかしその船出は大変なものになるけれど。



*****



楽しそうに笑いながら、エースが先を行く。何でも彼女の為に用意した部屋に案内してくれるのだそうだ。わざわざ用意してくれなくても。言われればそこらの大部屋でも入るのに。まぁそこは女という性別と恩人という点で1人部屋にしてくれたのだろう。遠慮なく受け入れよう。

上機嫌で歩いていたエースがピタリとある扉の前で止まった。こちらへ振り返れば得意気な顔。そういう表情はまだあどけなさが残る。

「ここが六月一日の部屋だ!」

返事をする前にどうだ!とばかりに扉を開ける。その先にはベッドと窓が覗いて見えて。少し広めのワンルーム。船旅には十分な広さだった。

しかし何より彼女の言葉を失わせたのは部屋の装飾である。床には青を基調とした蔦柄のカーペット。壁際に置かれたタンスにはステンドグラスのキャンドルホルダー。天井からは赤や緑のランプが吊り下がっている。これはまるで。

「お前の部屋みたいだろ?」
『…うん。』
「六月一日が自分の家具売っちまってンの見て、似たようなのまた集めたんだ。いつかは降りるっつっても旅は快適なほうがいいと思ってさ」
『…エースくん』
「おう」
『私今すっごく君をハグしたい』
「よし来い!」
『そぉい!』

津々四の入った鳥籠をそっと床に置くとタックル同然でエースの胸に飛び込んだ。自分にしては結構な勢いだったというのにフラつく事なく彼は受け止める。ううん、流石現役の海賊。己の知ってる柔な男どもとは体の作りが違う。
体を包む逞しい腕にしめしめと不純な気持ちを抱きつつも、ハグを解くと顔を見合わせてぶはっと吹き出して笑った。こういう他愛のないおふざけがとても懐かしく感じる。

『いやぁビックリしたよ。いつの間に中身まで男前になったん』
「惚れンなよ?」
『ははっ ねーわ』
「おまっ、そこは嘘でも惚れたって言えよォ!」
『ねーわ』
「2回も!それも真顔で!」
「…楽しそうなところ悪いが、邪魔するぞ」
「! ビスタ!」

ふざけていれば開けられたままだった扉をノックして5番隊隊長のビスタが声を掛けてきた。シルクハットの鍔に指を置き、こちらを覗き込んでいる。彼女が頭を垂れて会釈すればその帽子を軽く上下しての挨拶。本当に多様な人物が乗っている。

「もう20分ほどで出港だそうだ。…話ではそろそろらしいが」
『えぇ、もう間もなく。今ンとこズレはないから予定通りにって感じかな』
「へっ、大将なんざ返り討ちにしてやるぜ!


視たありのままを白ひげのクルーに伝えた。大将黄猿が本日再びこの島にやって来ると。その目的はニューゲートでもエースでもなく彼女である。あの時こそ誤魔化すというか知らぬ存ぜぬで通したがそれがバレてしまい。海賊王ゴール・D・ロジャーの実子エースを逃した大罪人として捕縛すべく大将自らやって来るのだ。




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