いっそ家族になればいいのにとも思う。まあそれは追々。出航して逃げ場が無くなってから口説こう。

ふぅ、と六月一日の唇から煙が吐かれる。左手には煙管。右手には酒の注がれたグラス。娯楽の多いことだ。

『どうって…。こうだけど』

何でもないように たん、 と爪先で床を叩く。その瞬間ピタリと人の喧騒が止む。話しかけてきたマルコも酒を煽っていたニューゲートも石のように固く。だが全員が全員という訳でもないようだ。全体の3分の1は動き
、周りの状態に驚き慌てている。
再び六月一日が たたんっ と床を叩けば体の硬直は解け人の声と立てる物音が帰ってきた
。戸惑いの声がそこかしこから聞こえる。微塵も動揺していないのはエースと術を施した張本人のみである。

話題を振ったはずのマルコも珍しく狼狽えていた。しかしすぐに落ち着きを取り戻し訝しげな視線を彼女へと向ける。
聞いてきたのはそっちなのになぁ。

「…今のは何だよい」
『2年前エースくんを助けるために使ったのと同じ術だよ』
「ンなほいほい使えんのか」
『まあ。下準備は必要だけどね』
「下準備?」
『そう』

頷きつつ酒を一口飲んで彼女は更に言葉を続けた。その場に居る全員の名前と生年月日を調べ上げたのだと。人間1人1人には星が割り振られている。生まれた日を知ることで星を判別し、強制的に動きを止めた。
なんて事をあっさりと言ってのける彼女に愕然とする。だってあの場に居る全員の名前と生年月日だぞ。あの日マリンフォードに何人の人間が居たと思ってる。白ひげ海賊団だけでも1000人は行っていて、その傘下。そして海兵を加えれば10000は行く。それを全てと軽く言うか。いや、高名な彼女のことだ。エースと出会うより以前にこうなると判っていて準備していたに違いない。

だとしても1人1人調べて行くのは途方もない作業だったろう。普段の生活だってあるのに
、その合間を縫ってその日に備えた。エースは自分の胸が熱くなるのを抑えられなかった
。自分1人を助けるために。こんなにも真剣に取り組んでくれていたとは。彼女が困っていたら絶対に助けよう。命の対価にしては安すぎるだろうけど。

マルコもニューゲートも押し黙る中、一度言葉を区切って六月一日は続けた。

『さっきので動いてた奴と止まってた奴をよぉっく調べておくといい。あの戦争の後に入ってきたのに止まってたなら、そういう事だから』

新入りなのに止まっていた。それはつまりあの場に居たという事で。小さくマルコは頷いた。





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