嗚呼わざわざ術を施して自分の名前を聞こえぬようにしたというのに。これではとんだ無駄骨。

それもこれも知ってましたけどね。

『如何でございましょう。手前の願いお聞き入れ頂けますでしょうか』
「何かねェのかっつったのは俺なんだ。それぐらい安いモンだぁ」

飲んでくれるだろうとは分かっとったがいざ了承を得られるとホッと一安心する。

これでどうにか人心地ついた。宴会の前にます礼をとなっていた為それが終わった途端彼女とニューゲートの周りにいたクルーたちがそわそわし始めた。皆ニューゲートによる宴の号令を待っているのだ。こういう所は厳つい顔に似合わず子供っぽいなと思う。口には出さないが。

子らの視線を一身に受けニューゲートはグララと喉を鳴らして低く静かに笑う。それですら鼓膜や体を震わせる。それもその身に宿した悪魔の実の力だろうか。いざ対峙する場面になった時が恐ろしい。上手く立ち回らなくては。

「長ったらしい話はこれで終ェだぁ。息子たちよ!大恩人を盛大にもてなしてやれェ!!」
「うおおおぉおおぉ!!!!」

大勢の人間の声が轟き、ニューゲートの笑い声とは比較にならない程体が震える。驚きの声を上げつい反射的に目を瞑ってしまえば手首を誰かに掴まれる。目を開けば満面の笑みのエースが立っていて。こういう時エースの存在はありがたいなと素直に思う。少し強めにその腕を引かれる。

「こっち来いよ六月一日!特等席用意してんだっ」
『あらま。ンなお気遣いいらんよ?』

そう言う彼女を無視してその特等席へと向かう。いや聞こえてないんだろう。見える横顔が楽しそうで興奮しているから。ここは抵抗せずエースのもてなしを受けるとしよう。



*****


美味い飯に美味い酒。そして楽しそうに笑う息子たち。それを眺めるだけでも気分がいいのに傍らには亡くしかけた息子とその恩人が居る。ニューゲートは頬が緩むのを抑えられなかった。
その恩人、六月一日は特等席と案内されたのがニューゲートの真横で皆から注目を浴びるような場所だからかやや不満そうにしていた。しかし振る舞われる酒が気に入ったのかその表情もすぐに消え。自分と同じく酒好きだとエースに聞いた。だからとびっきりの酒を用意したのだが、どうやらお眼鏡に叶ったらしい。喜ばしい限りだ。

『エースくん火ぃちょうだい』
「んぉ、ほらよ」
『どーも』

煙管に新しい煙草を詰めてエースへ向ければ非難の声もなく火皿へ指を押し入れ火を点ける。これが他の家族であれば「人を火種扱いすんな!」と一言あるものを。まるでもう慣れっこであるかのようだ。
夢の中で、こんな事が何度となくあったのだろう。素直にそれが羨ましいとニューゲートは思った。現実での冒険なら山ほどしてきた。シリーズものの小説が余裕で執筆出来るぐらいだ。

けれどさしものニューゲートも夢の中で誰かと出会い縁を繋げることなど。自慢の息子は良い出会いをしたようだ。良いことだ。

気分良く酒を煽っていれば酒瓶片手にフラリと白ひげ海賊団の長男こと一番隊隊長マルコが2人の元へと歩み寄る。ふむ?とニューゲートは器用に片眉を吊り上げた。

「よぉ、飲んでるかい」
『えぇお陰さまで。良い酒ばかりですので』
「堅苦しい喋り方はいらねぇよい。これからしばらく一緒に過ごすんだからな」
『そりゃどーも。で、一体何用で』
「鋭いな。まぁちょいとお前に興味があってねぃ」
『興味ねぇ…』
「なぁ教えてくれよい。どうやって2年前、あんな大勢の足を止めたんだ」

マルコが話し掛けてきて嫌味や小言の一つも溢すんじゃなかろうなと身構えていたエースはやや肩の力を抜いた。一番隊隊長であるマルコはその立場から新参者には厳しく当たりがちだ。
海軍や他の海賊のスパイという可能性も捨てきれない。白ひげは四皇と呼ばれ恐れられる存在。それを監視しようと、あわよくばその首を獲ろうとする連中は多い。

現状たった三つ先の島までとは言え六月一日が同船するのをよく思っていない者もいるだろう。しかしニューゲートが許可したのと、エースの命の恩人という点から大々的に文句を言えないでいる。いくら恩人と言ってもだ
。受け入れられないこともある。
そういう家族の想いを背負い代表してマルコが来たのだとエースは思ったのだが。ただの好奇心か?判断がつかずグッとジョッキを握る。彼は心に決めていた。彼女の同船が決まった時から、自分が助けてやるのだと。恩返しにもならないが返さねば。




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