朝日が昇り暫くした頃。港に停泊するモビー
・ディック号にバタバタと駆け込むようにエ
ースが帰船した。
一晩中降っていた雨も早朝には止み。出来た水溜まりを気にせず進んできたせいか、その体には泥が跳ね汚れてしまっていた。しかし全体的に見ればどちらかと言えば小綺麗。何処かで雨宿りしていた事が伺える。

「ただいま!」
「おかえり。で、どうだったんだ?恩人には会えたか」
「おう!昨日はそいつンとこ泊まったんだ!

「…恩人って女じゃなかったか?」
「? そうだけど」

そんな事を聞くのは無粋かと、エースを出迎えたイゾウは口を閉じた。問うまでもなく男女のそういった事は無かったのだろう。まぁ恩人を捜しに行ったというのに恩人といたして帰ってくるなどもっての他か。エースとその恩人が男女の仲であるならば話は別だが、聞く限りはただの友人。
やれやれと肩を竦めた。

「まずは親父に報告してこい」
「もちろんそのつもりだ!」

ダッと駆け出して船長室へ向かう。

昨日は一晩中とまでは行かないが日を越えてまで彼女と語り明かした。空白の2年を埋めるように飽きることなく。戦争の後自分がどうしていたか。どんな修行を積んで強くなったか。そして聞きたかったもう一つの事を彼女に問うた。
こちらに来ているにも関わらず何故連絡してこなかったのか。そしたら何てことないようにこちらに慣れるのに必死だったと言った。絶対嘘だ。六月一日は何処ででも生きていけるような性質だ。それは思い込みでも過大評価でもない。多分、忘れていたとか面倒だったとか…。いや、きっと来るのが分かっていたから連絡しなかったんだろう。来んならわざわざいいだろうと。おのれ。

ほとんどエースばかりが話していたがそれでも彼女はとても楽しそうに相づちを打ってくれていた。それが更にエースの口を回させていた訳だが。頬が緩むのを抑えないまま船長室のドアをノックした。

「親父、俺だ。入ってもいいか?」
「あァ構わねぇよ」

当然のように受け入れて貰えることが嬉しい。だらしない顔を助長させるのはこの環境だなと心の中で呟いてドアを開けた。

隊長たちの私室よりもうんと広い船長室。モビー・ディック号は基本白ひげことエドワード・ニューゲートのサイズに合わせて造ってある為どこもかしこも大きめだ。しかしこの船長室は他より群を抜いて広々としていて。子供が余裕で駆け回れる。

「帰ったか息子よ。で、恩人には会えたか」
「ただいま親父!あァ会えたぜ。2年前とちっとも変わってなかった!」
「グラララ。そいつぁ良かった。…もちろん紹介してくれるンだろうな」
「そのつもりだ。今日の夜早速連れてこようと思うンだけどいいか?」
「悪いわけあるか。大事な息子の命の恩人だ。親のおれが礼を言わなくてどうする」

そう言うニューゲートについつい照れくさくなって俯いてしまう。ニューゲートの息子に、家族になって早数年が経つがこうして面と向かって“息子”と呼ばれると今でも恥ずかしくなってしまう。親というものが縁遠い幼少期を過ごしたからだろうか。
自分の靴を見ながら頷けば、腹の底に響くようなニューゲート独特の笑い声が頭上から降ってきた。


****


「っつーワケで夜迎えに来っから」
『起承転結の結だけ話しやがってテメェ』

ランチを一緒に食べようと約束したのは今朝の別れ際のことだった。今日も仕事があるからと追い出すような形でとりあえず一度別れを告げればまぁエースは拗ねた。それが20を越えた男の拗ね方かと笑いたくなるような、下唇を突き出すという事をしてくれて。宥めるわけじゃないが、次の約束としてランチにお誘いした。ら、分かりやすく機嫌を直してくれて。チョロいな火拳。

「でも言わなくても判ってンだろ?」
『それとこれとは話が別。私が知ってっからって報告とか相談を怠んのはいくないよ。ンな一方的なツーカーあってたまっか』
「怒ンなよ、ちゃんと言うから!えっとだな俺の親父、白ひげ海賊団の船長エドワード・ニューゲートがお前に礼を言いたいってさ。夜、六月一日への礼として宴すっから来てくれよ。迎えに行くから」

照れくさそうにしかしどこか嬉しそうに笑うエースは実年齢よりも大分若く見えた。

親として子の危機を救ってくれた恩人に礼を言いたい。それがありありと見てとれる。だからエースは照れていて同時に喜んでいるのだ。何とまぁ可愛らしい男だ。これを言ったら拗ねるから言わないが。
大切な友人からの誘いだ。断るわけもない。幸い今日の夜は空いているし、以前に聞いた話では白ひげという男は大層な酒飲み。味の判らない舌の持ち主でも無いらしく好む酒は皆有名で良質なものばかり。ならばそこで振る舞われる酒も期待出来るだろう。数時間後には喉を通るであろう酒を思い浮かべて頬が緩んだ。

判ったと一つ返事して、はたと六月一日は食事の手を止めた。

『私、勝負服で行ったほうが良いんかな』
「はぁ??」

お偉いさんに会うのだし、初対面だし。なら占い師だと一目瞭然の格好で行ったほうがいいんじゃないか。
え? 周知の事実だって? さいですか。




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