『お兄さん、何時までもそんなとこにいたら体ふやけちゃうよ』

それを待っていたかのように声が響く。大きい訳ではないのにやたらと耳に入ってきて。初めて会ったあの日と同じ台詞が降ってきた。笑い声混じりのこの声を聞き間違える筈がない。2年前何度も聞いて、これまでずっと聞きたかった、声。微かに震えながらもゆっくりと振り向けば青い服は着ておらず、代わりに青い傘を差した彼女が。六月一日がそこに立っていた。
長い黒髪がさらりと揺れる。

『久しぶり、エースくん』

何てこと無いように笑って言う。

―言いたい事はいっぱいあった。ありがとうは勿論、何でここに居るんだ、居るならどうして連絡してこないとか文句と心配と不安がごっちゃになったものを感情に任せて吐き出してぶつけてしまいたかった。
だと言うのに余りにも彼女が以前と変わらずにそこに居て、あの時を感じさせないように言うものだから。本当に久しぶりに友人に会ったとばかりに笑うものだから。何だか感情に振り回される自分が子供みたいだと、思ってしまった。

真一文字に唇を引き結ぶ。怒りや喜びや寂しさ嬉しさが入り交じったぐにゃりとした表情のままエースはぎこちない笑みを浮かべる。

「…あぁ、久しぶりだな…!!」

それがとても大人びて見えて。そぅっと目を細める。たった2年。されどその2年の長さを六月一日はまざまざと感じ取った。

雨はまだ止まない。





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