厚い雨雲が空を覆う。今にも降り出しそうなその日の夕方にモビー・ディック号はソーニョ島に到着した。僅かに開いた雲の切れ間から濃厚なオレンジが差し込む。まるで炎のようだった。

白ひげ海賊団にとってそれはイコールで末弟のエースに繋がる。甲板に出ているクルーのほとんどが彼を思い出している中、その当の本人はあらん限りの力で甲板を蹴り高く跳躍する。骨が折れるんじゃないかと思ってしまうぐらいの衝撃音を立ててエースは波止場へと降り立った。
船縁から慌てたようにハルタが身を乗り出す。

「待ちなよエース!今晩は雨が降る!そんな中能力者のお前が走り回ったら…っ」
「大丈夫だ!それに、止むのを待ってたらアイツがどっか行っちまうかもしんねぇ!」

彼女は凄腕の占い師。ならば今日こうしてエースが島に来ることは分かりきった事だろう。
考えたくはないが、それでもし逃げられてしまってら。占いを駆使して避けられたら一生会える気がしない。会いたくない。と思われるような事をした覚えはないがこうして此方に来ているというのに夢の中でさえ会いに来ないのが不安で堪らなかった。

会えないのか、会いたくないのか。
そのどちらかも分からない。せめて何か理由があるなら教えて欲しい。納得出来るかは別だが分からないままより断然良い。嗚呼本当に、夢で会うことが叶うなら。エースがどれだけ願っても互いの夢が交わることはなかった。それもその筈。受け入れるかどうかは全て彼女に委ねられている。向こうが道を絶っていればその日は永遠に来ない。

狭くはないが広すぎもしない島の中をひた走る。目に入る青にいちいち足を止めながら。市場、飲食店の並ぶストリート、噴水広場。何処を回っても彼女はいない。もしかしてもうこの島にはいないんじゃないか。有り得る。何てったって六月一日は凄腕の占い師。こちらの動向を伺うことなど容易い。

「…〜っ!何処にっ、いるんだよ…!」

焦るエースに追い打ちをかけるように雨が降ってくる。ぽつりぽつりと降る雨粒は次第に勢いを増し。5分と経たぬ内に視界を遮断するほどの雨となった。それはまるでエースの今の状況を表しているようで。見通しが利かず行く手を阻まれる。ぎり、と唇を噛み締めた。
肌を打つ雨が痛い。雨の勢いがあるからか何だか少し体も怠い。精神的な疲労もある。どうして。どうしてこうも上手く行かない。ただ自分は会いたいだけなのに。会って言わなきゃならない事があるんだ。本当は2年前に言うべきだった言葉。それはもう2年も言えずに心の中に留めたままで。

ぐっと拳を握って天を仰ぐ。どんよりとした雨雲から幾筋もの雨が降ってくる。エースの顔を濡らし、目尻から頬へと一筋流れる。泣いているようだった。

「何処にいるんだ…!六月一日!!」

雨が少し弱まった。




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