とっぷりと夜も更けた頃。
夜空には大きな満月が浮かび宝石が散りばめられたように星が瞬いている。今日は1日を通して晴れ渡っているから星も月もよく見えた。こんな日には野原にシート敷いて、月見酒と洒落こみたいもんだが残念ながらそうはいかない。手持ちの酒が尽きたとかではなく今現在家に居ないからだ。

四つ角を曲がった所に最近現れるようになった得体の知れぬ化け物。聞いた話では人とも化け物とも取れる容貌をしているとか。それを島長に頼まれ退治しに来たという訳だ。しかし気分は浮かない。本来彼女の生業は占い師。これはその範疇ではない。そちらにも精通しているから苦ではないが。
ここの島長には世話になっている。何処から来たとも判らぬ余所者もを受け入れてくれた。それだけで十分、恩返しをする理由になる。

それが例え範囲外でも。出来る事ならば。

『次で四つ目。さて鬼が出るか蛇が出るか…。』

どちらにせよ碌でもない。
六月一日が困り果てた島長から聞いたのはこんな話だった。夜、出歩いていた人々が角を曲がったところで正体不明の化け物に襲われるというもの。場所はてんでバラバラで規則性は皆無。挙げ句同じ時間に違う場所で襲われるなんて事もあったのだから
島長はお手上げ状態。
化け物は複数いる。それは島民を怯えさせ。夜も賑わっていた飲み屋の並ぶストリートも静まってしまっている。そこまで聞く前に彼女は答えを口にした。

曲がり角を四つ。曲がることで成るのだと。

三つまでは大丈夫。けれど四つ目を曲がった途端そこは異界と繋がり異物が姿を現す。勿論そこかしこでこんな現象起きようはずもない。そんな事が頻発していればこの世はもっと阿鼻叫喚の地獄絵図。
退治しない事にはハッキリとは言えんが、恐らくは恨み辛みが原因。人も獣も、負の感情が膨らむと思いもよらない災いを呼ぶから楽観視は出来ん。気を引き締めてかからないと。

『まぁいざとなったら頼りにしてっからね』

ぽんと胸元を叩けば、ささやかな谷間に差し込んだ銀の細筒が小さく震えた。この子を使うことにゃ多分ならんけど。

カツ、とサンダルの踵を鳴らして件の四つ目の角を曲がる。と、見る見るうちに空気が淀みひんやりとしていく。ここは夏島に該当して夜でもこんなに冷え込むことはまずない。加えて今晩は天気も良い。となればこの底冷えするような空気は何者かが作り出したということだ。
それは、今、目の前にいる。

『うぇ、グッロ…。』

舌を出して嫌そうに顔を歪める。それほど現れたものは酷かった。

赤く、滴る血液。噎せ返る血の匂い。肉の塊のような体からは犬やその他の動物そして人の手足が突き出したり貼り付いたりしていた。正に化け物。こりゃあ退治を頼まれる訳だ。むしろ今までよく死者が出なかったものだ。強固な結界を島に張るべきか?
悪にしても善にしても全く幽霊が居ないのはバランスが崩れるから出来ないが。

ぐちゃり、と血肉を撒き散らしてそれが六月一日へと近付く。力の強い彼女を取り込もうと言うのだろう。確かにそうすれば怖いもの無しだ。されど己が叶うかどうかなど歴然だろうに。それでも向かってくるほど、六月一日が魅力的なのだ。
ああやだやだ。こんなのにモテたってちっとも嬉しくない。

『あはれなるたましいはひらさかこえていざよみじへと』

ぽつりと唱えりゃたちまち化け物は地面に吸い込まれてゆく。抵抗してはいるがそんなの有って無いようなもの。無駄だ。彼女が存在を良しとしなかったのだから。

ずぶりずぶりと地面に沈みやがて姿は消えてなくなり。それまであった淀み、冷えた空気もからりと消えた。大変じゃあなかったが面倒な仕事を終える事が出来て体の力が抜ける。後何回、こうして面倒な仕事を受けれるだろうか。

『…こっから眺める星も、後ちょっとで見納めかねぇ』

あーぁ、やれやれ。




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