本人が望むと望まないとに関わらず、才ある者というのは人の目に付きやすくまた格好のネタにされやすい。ましてや彼女は噂を好む女性たちがメインターゲットとなる職業だ。評判は口コミという形で広がり、気がつけばそれは島外にまで飛んでいた。
人の口に戸は建てられないとはよく言ったものだ。広めるなとも言いはしなかったが。

島から島へと渡ってゆくモビー・ディック号にも遂に彼女の噂が届いた。

「ナースが話してたんだがよ」
「よい?」
「ソーニョ島ってとこによく当たるって評判の占い師がいるらしい」

ピクリと誰かの肩が動く。
それに気付かず話を始めたイゾウは更に内容を進めた。なんでもこれまで外したことは無く。とある海王類に襲われ亡くなった男の遺体を見つけ出したり、手のつけようのない憑き物を簡単に祓ってみせたり。天気予報は当然のように当たり、意地の悪い人間が占いの結果を覆そうと躍起になって抗っても結局その通りになってしまう。その占い師は随分と若い女で海のように青い衣装を身に纏っていることが多いとか。

そこまで聞いて、何処かで聞いたことがあるようなと食事の手を止めてマルコは考えた。つい最近。ではないが確実に何処かで。何処だ。悩むということは一度か二度とほどしか聞かなかったのだろう。
しかし何となしに覚えているのだから余程の場で聞いたか、余程の人物からか。親父か?いやそれだったらうろ覚えなんて事にはならない。

いつ、何処で、誰から。

それを1人、イゾウの話に器用に相槌を打ちながら考えていればガタリと背後から物音。なんだうるせぇなと振り返れば背中に大きく彫られた白ひげのジョリーロジャーと目が合う。そして立ち上る陽炎。どうしたんだエース、と誰かが声を掛けると同時に駆け出した

後一歩で食堂を出るというところでその背中に蹴りが入る。自然系であるエースに攻撃を当てる為きちんと武装色の覇気入りの。それを繰り出したのはマルコである。思い出したのだ。その占い師のことを誰から聞いたのかを。だからこそエースのこの急な行動にも対処出来たのだ。立ち上がろうとするエースの背に足を乗せて逃亡を阻む。

「っに、すんだよマルコ!退け!!」
「退かねぇよい。お前今ソーニョ島に行こうとしたろ」
「…っ!だったらどうだって言うんだ!」
「行かせねぇ。あそこにゃ今海軍大将黄猿が討伐戦で出向いてる。テメェか行きゃどうなるか、分かるない?」
「大将ぐらい俺が燃やし尽くしてやる!!」
「粋がるなよ若造。たった2年修行しただけで大将首との経験の差が縮まると思ってンのかい」

思うとは軽々しく口に出来なかった。あの戦争の日。目の前で繰り広げられる戦いには三大将も参加していて。そこで見せつけられた彼らの強さ。エースも修行の甲斐あってあの頃より格段に強くなっている。けれどまだ大将には勝てない。

判ってる、判っている。それでも感情が抑えきれない。だって。

「頼む行かせてくれマルコ…!俺はありがとうの一言も言えてないんだ…っ」
「………は〜っ。それを言うのは親父にしろい。まずはそれからだ」
「 ! 判った!!」

溜め息を吐きながら足を退かしてやれば嬉々とした表情で立ち上がるエース。まったく、世話の掛かる末弟だと仕方なさそうに笑った。





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