いくらお客とは言えこんなのがやって来たらさしもの六月一日も嫌な顔一つせず、なんてのは無理だった。うげぇっと女らしからぬ表情をしてしまう。それぐらい本日いらしたお客様は酷かった。

何がって? 背中にくっついとる者々がだよ
。女が3人。子どもが4人。よくやるなぁ、この色男。勿論皮肉である。

「何だか最近体が重くて…。それに不運なことが続いてて。ちょっとそういうのが見える奴に見てもらったら、なんか黒い靄みたいなのが付いてるって…。」
『(靄どころの話じゃねーわ)それで、私にどうしろと?』
「お願いします祓って下さい!アンタ凄いんでしょ!?これくらい…っ」

出来るとは正直口にしたくなかった。
己の本分は占い師。それは六月一日の領域ではなく霊媒師の仕事だ。それにこの男のこれは身から出た錆。自分の行いが悪かった為の報いだ。それも相当酷い。女の敵。一体誰が助けてやりたいと思うのか。親兄弟ならば情で思うかもしれんが彼女はこの男と何の関わりもない。面倒な客が来たものだ。

『そうなることに心当たりは?』
「ないです!俺は誠実に生きてきたんですっ」
『(呼吸するように嘘つきやがってコイツ)』

誠実とは正反対な生き方をしてるクセして。六月一日のどういう噂を聞いたかは知らないが、少なくとも占い師という事は耳にしたろう。ならば己の行いが筒抜けているかもとは思わないのか。

目をつけた女にゃ実に狡猾に近付き口上手く騙し。そしてヤるだけヤって飽きたらポイ。子どもが出来たら腹を中心に殴る蹴るの暴行を加える。どの口が誠実だなんて言いやがる。
取り憑く女は皆生き霊。子は水子。命を奪い、未来を摘み取った罪は重いぞ。

『…良いだろう。今回だけ、取ったらぁ。けど次はねぇしテメェの行いを改めないなら同じことは何度でも起こんよ。倍になって、ね』
「説教はいいから!早く取ってくれよ!」
『へぇへぇ』

急かす男を滑稽だと思いつつ煙管に火をつけ、煙を吸う。口や肺いっぱいに溜めた煙に氣を込めるとそれを男へと吹き掛け。突然のことに思い切り吸い込んでしまい煙たさに噎せる。苦しそうに涙まで滲んでいるというのに、彼女は気にせずまた煙管を吸って。今度はあらぬ方向へ煙を吐いた。

「な、にすんだ…っ!」
『何とは失礼な。祓ってやったんだよ、お望み通りにね。身軽になったっしょ』
「…そういえば……」

肩をぐるんぐるん回して確かめればここに来た時よりも軽くなっている。寧ろ重みを感じない。気分が上がるのが分かる。喜びのあまり男は彼女の手を握って礼を言い、代金を支払って帰ってゆく。その背を見て、無駄なことをしたと思った。
アレは改めないし何度祓おうともまた憑いてしまう。それほどの恨みを買ったのだ。若気の至りで許されると思うなよ。

それ以上に無駄だと思ったのは。

これから10日以内にあの男は死ぬからだ。そう視えたんだ。覆る事はまずない。考えと行動を改めん限りは。まぁ、それでどうするという事も無いけれど。






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