題【彼女が有名になるまでの三篇。】




ざわざわと人が話ながら行き交っていく。どこか楽しげで忙しない空気の中、そこだけがゆっくりと時間が流れている気がした。

『幼馴染みのハートを射止めたい、ねぇ…。』
「は、はい…っ」

この島の西側に住むという青年は頬を赤らめながら、落ちつきなく頷いた。

こういった恋の相談は占いにやってくる客の約8割にも及ぶ。珍しいことじゃない。女々しいだとか、信用出来ないだとかで男性客が恋愛系でやってくるのは確かに少なかった。それが理由でこんな態度を取ったのではない。占うまでもなくこの青年と幼馴染みとやらは相思相愛だからだ。話を聞いていれば分かる。

気立てがよくって明るくて。ちょっと負けん気が強くて意地っ張り。でも世話焼きで美人。
反して自分は誰に対しても何にしても弱腰で、ドジばかりで良いとこ無し。顔だって平々凡々。幼馴染みに何度助けられたか分からない。ここまで聞いてうっかり出そうになったため息をぐっと我慢した。弱腰でドジに加えて鈍感。どうして気付かないのか。

そんなに助けるからには理由がある。彼女の性格や幼馴染みという立場は確かにあるだろう。しかしそれ以上に好きだからこそ手を貸すのだ。無関心であれば見てもいないから失敗にも気付かない。好きで、見ているからこそすぐに駆け寄れるんだ。それをこの男は…


「ぼ、僕の住んでいる区域で一番金持ちでカッコいいヤツがその子にプロポーズして…!い、居ても立ってもいられなくって…!」
『居ても立ってもってんならまず来るべきはここじゃねーだろ』
「う…っ」

思わず強く言ってしまうのも仕方ない。
手遊び感覚でタロットを並べ、引っくり返して見りゃあ見事に恋人たちが現れた。正位置のタワーも出たがまぁ彼が男を見せれば問題はない。あるとすれば自分に自信が無さすぎるところ。良いところもあるんだから、もうちょっと胸張って前向きになればいいのに。
持っていた煙管の火皿を男にビシッと向けて言う。

『まぁまずはその子ンとこに行くんが先決だね。思いの丈を伝えて、強引に抱き締めてやんな』
「だ…!?そ、そんな事出来ません…!」
『なら彼女が嫁に行くだけだ。それとどちらが嫌か天秤に掛けるといい』
「……でも、」
『やるんだったら…。3日後。噴水のある大通りで。どこぞの花屋で彼女にピッタリだと思う花を見繕って行きんさい』

店員に勧められたりスタンダードな薔薇ではなくあくまでも自分自身で選んだものを。

自分に自信は無いけれど、人の話を素直に聞く青年は見事彼女のハートを射止めたそうな。わざわざ報告に来てくれたのはいいが、視っとったよ。






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