足を留めている止まり木。がその足には青いリングが嵌めてあるだけで鎖などには繋がれていない。放し飼いとは。

「よく逃げないな」
『ん? あぁ、この子。そう、賢いからね』

それだけでじっとしていられるものなのだろうか。
動物には詳しくないが多分違うだろうと考える。じっと男を伺う目。男の風貌が珍しいのもあるがこの鷹、津々四は己の飼い主でもある六月一日に危害を加えないか警戒していた。何かしようものならばこの爪を血に染めることもやぶさかではない。最悪主が逃げる一瞬の隙を作れれば。

そんな気概を感じ取ったのか、六月一日が手を伸ばして津々四を撫でた。そしてその流れで男にタオルを差し出す。青いタオルが出てくるかと思いきやスタンダードな白。そう思わせるくらいにはその衣装は印象的だった。
次いで体が冷えないようにと温かいお茶。至れり尽くせりではないか。

『さて、何を占おうか』
「どんな事でもいいのか?」
『構わんよ。お兄さんの知りたい事を、どうぞ』
「……なら、この先オレに好敵手と呼べる相手は出来るのかどうかを」
『かしこまり』

手にしていた煙管を傍らに置いてタロットカードを手に取る。ざっと混ぜると慣れた手つきで並べ始め。確か、超新星の1人バジル・ホーキンスもこんな風にタロットを使っていた気がする。占いというモノをよく知らないからアイツのあれは独自のものだと思っていたが…。どうやらちゃんとした手法らしい。メジャーなのだろうか。

目新しいものを見る視線を感じながら手際よくタロットを並べ終え、その絵と意味を確認する。あぁ、そう。成る程ね。まあことこの海では平坦な人生を歩むほうが難しいが、それにしてもこの男の人生はなかなかに山あり谷ありが激しい。生まれて間もなく、いや今はこの話じゃあない。好敵手が現れるかどうかだ。

『……うん、出会えるね。まだまだ大分先… お兄さんがもうちょっと年食ってからだけども』
「そうか…。どんな奴かも分かるか」
『海軍だね。お兄さんより年下で若さ故の無鉄砲な人間。けどそれもお兄さんに会うことで改善されんよ』
「……………。」

ぐ、と押し黙る男をちらりと見て後悔した。
なんて凶悪な顔をして笑っていやがる。顔は見えずとも発せられるオーラがヤバい。殺気と歓喜から来る武者震い。己の高揚を鎮める為に人1人殺しそうな気を纏う男に、六月一日はやれやれと肩を竦めた。

「その男の名は、」
『判っけど、教えねーよ。そしたらお兄さん探しちゃうっしょ?そんなんしちまったら全てが狂って好敵手にならんくなっからね』

今見つける事が出来てもそれは何の意味も持たない。然るべき時に然るべき出会いをしなければ。それに今言ってしまえばきっと見つけ次第勝負を挑んで殺してしまうだろう。あちらはまだまだ若く、とても男と戦って生き残れる身ではない。判っていて教えてやる程人でなしではないんだよ。

そのお人以外には男の望む好敵手には成らない。そう伝えれば戦いの玄人でもない彼女にも見てとれる程、男の闘気は萎んでいった。どうやら諦めたらしい。力ずくで来られんくて大助かり。

『まぁ人生の楽しみが出来たと思ったって』
「…そうすることにしよう」

気がつけば雨は止んでいた。
代金を払って店を後にする。散策も兼ねて改めて島内を歩き始めたところでふと思う。
どうしてか。いつの間にか。信じていないと思ってた彼女の占いを普通に受け入れてしまっている自分がいて。男、キラーは目を剥いた。知らぬ内に懐に入り込む事以上に恐ろしいものがあるだろうか。




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