吸い口から唇を離し、煙を吐き出す。バザールに軒を連ねちゃあいるが今は昼時。客はみんなランチに行ってしまっていた。ぶっちゃけ暇である。
生憎と自分は先程ランチを食べ終わってしまった。あの店の和食は本当に美味い。日本酒の種類も豊富だし、店構えもイイ。通りを入ったところにあるからイヤに混雑してることも無いし。自分の占いを駆使して見つけただけのことはある。こういう事には惜しみなく使うのだから困ったものだ。くすりと小さく笑って何となしに顔を上げた。

ムッキムキの体に金髪。何より特徴的なのが顔というより頭全体をすっぽり覆ってしまっている仮面のようなもの。最低限とばかり開けられた穴があるぐらいの。普段であればそんなあからさまに怪しく、且つカタギで無さそうな者には声を掛けない。触らぬ神になんとやら。
しかし、そう。前述にあるように彼女は暇を持て余していたのである。それに、もうそろそろ。

『そこの逞しいお兄さん』
「……オレか」
『そうお兄さん。時間あるんだったら寄ってかない?』

屈強な肉体の男が体ごとこちらへ振り返る。横から見てもイイ体をしていると思ったが正面から見れば殊更。この間のトラファルガー
・ローもイイ体をしとったが、あれはどちらかと言えば細マッチョ。この目の前の御仁はガチ。いやぁ見ていて飽きない。

飲み屋か、そういう店の誘いだとでも思ったのだろう。男は彼女を見、そして掲げられている“占い”の看板を見ると露骨に嫌そうな顔をした。仮面なんざ被ってっから雰囲気でしかないが。そこは経験則。ああいう手合いは自分のような非科学的で眉唾物を嫌うもんだ。それは当たりで。

「悪いがオレは占いは信じてないし、興味がない」
『まぁそう言わずに。雨宿りの暇潰しだと思ってさ』
「雨など、」

降っていないと続けようとしたところで見事に鍛え上げられた男の肩にぽつりと雫が落ちる。まさかと見上げればしとしとと天上から雨が降ってくるではないか。それは少しずつ粒を大きくしていって。まばらではあるがバザールにいた客がバタバタと何処かへ避難していく。
紫煙をくゆらせながら女がニヒルに笑った。

『何時までもそんなたとこに居ったら風邪引いちゃうよお兄さん』
「…………。」
『長い人生の束の間、ちょいと私にもらえんか』
「……いいだろう」

たかが天気を当てただけ。その程度の芸当を出来る占い師ならこの海にはごまんといるだろう。それでも何故か彼女には感じるものがあった。勘としか言えない。けれどこの海を渡っている以上、その勘が大概馬鹿には出来なかった。
時としてそれに身を任せるべきだと学んだ。今がその“時”に含まれるかは分からないが。

敷物の上に上がり、彼女の対面にどかりと胡座を掻いて座る。目も覚めるような蒼と此方をじっと見据える鳥と目が合う。随分と大きい。鷹だろうか。




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