「うるせぇ。人が食事してんだ、少しは静かにしやがれ」
「っ!?なっ、て、てめぇこのやろ…!!」
「なんだ、首も落として欲しいのか…?」

長身で、目元の隈が印象的な男がニヤリと不敵な笑みを見せ人差し指を突き立てながら刀をちらつかせる。それを想像したのか、絡んできた男は短い悲鳴を上げると落ちた腕を抱え込むようにして店を飛び出した。情けない。男なら敵わぬ相手と思っても歯向かってみせろ。いや、それは無謀というやつか。いつだって命は大事にしなければ。

痛めてはいないだろうかと掴まれた方の腕を見る。触ってみたり動かしてみたりするがその心配は無さそうだ。利き腕を掴まれた時はしまった!と思ったもんだが。ふぅと息を吐きながら改めて六月一日は助けてくれた男を見た。

『いやぁお兄さんありがとね。助かったよ』
「別にてめぇを助けた訳じゃねぇ。飯が不味くなるのを避けただけだ」
『まぁそれでも助かったことにゃかわらんから。礼ぐらいさせたって』
「礼だと…?ハッ、なんだ体でも差し出すってか?」
『それは礼としちゃあ行き過ぎっしょ。…お兄さん、最近なかなか寝つけないこと多くない?』

疑問符はついていたがどこか確信した様子の言葉に男の目元がピクリと動く。そしてじっと観察するように彼女を眺める。顔は平均よりは上。身長は並み。先ほどの模様からあまり戦いには特化していないのだろう。どこにでもいる女。そんな印象が自分の中で根づきそうになるのを必死に耐える。
普通な訳がない。医療に携わる者が多く乗る自分の船のクルーですら気付かなかったことを、この女が当てた。

医術の知識があるように見えない。腕に異常がないかを確かめる素振りは素人のものだった。
得体の知れない者と対峙している。そうは思うが決して怯えは抱かなかった。これから大仕事が待ってるんだ。こんな事で。眉間に皺を寄せたまま、口を開く。

「…それがどうした」
『んん、普段から睡眠を疎かにしがちなんだろうけどね。それに加えてそれじゃあ疲れも溜まる一方だろうと思って』
「……………。」
『これっくらいが礼としちゃあ妥当でしょう』

何故いつもちゃんと寝てないと分かる。隈があるからとも思うがそれ以外の理由があると、どこか決めつける。能力者か?
彼女について思案しているとその手がこちらへ伸びた。にも関わらず攻撃をしたり避けなかったのは全く敵意を感じなかったからで。肩に担ぐようにして持っていた妖刀・鬼哭に六月一日の人差し指が触れた。

『あんまり御主人様を悩ませるんじゃないよ。少ぅし大人しくしときんさい』

言いながらとんと柄を叩けばパキリと何かが鳴る。刃が折れるにしては音が軽く、金属とはまた違う音。何かに例えたくとも似たようなのを過去に聞いたことがないので言いようもない。危害を加えられたとはそれでも思えなかった。
どころか心なしか体が軽くなった気さえする。

『これで眠れるようになんよ。今夜からはぐっすりさ』
「…お前、能力者か」
『まさか。何だったら海を一泳ぎしてこようか?』

それならば何故あんな不可解な

「…俺の名はトラファルガー・ロー。お前は」
『これはご丁寧に。手前の名は六月一日。しがない占い師をしとります』

恭しく頭を下げる彼女を見てローは盛大に表情を歪めた。


余談ではあるがローはその晩、とてもよく眠れたそうな。それは一体誰のお陰かせいか。




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