穏やかな気候、長閑な風土。何事もなく平和に生きて行くにはうってつけの島だと相も変わらず煙管を吹かしながら六月一日は思う。

何故彼女がこの島に、この世界にいるのかと言うと追い出されたからに他ならない。無論エースを助けた件でお叱りを受けてだ。世界を追い出される程の罪を犯したのだと、言われた時は珍しく啖呵を切ったのは記憶に新しい。何が罪だ。友人を助けることが罪だと言うのならこの世は罪人だらけだ。運命なんかクソ食らえ。

そんなこんなで彼女はここに来た。既に住んで3ヶ月。余所者を嫌う気質でもなかったこの島はなかなか住み心地が良い。世界を追い出されたとて、どこでも生きていける性分の六月一日には苦にもならなかった。ざまぁみろと鼻で笑う。
それがいけなかったのだろうか。

「よぉ姉ちゃん1人か? 寂しいなぁ寂しいだろう?オレと一緒に酒飲もうぜぇ」
『生憎、昼間っから飲んだくれる趣味は無いんだわ』
「ンなつれねぇこと言うなよ」

何で私なんぞに声を掛けてくんのか。周りをよぉっく見りゃもっと美人がおるだろうに。そんなことを考えてる余裕はあるのだから大したことではないのだろう。
接客業なんてやっていればはた迷惑な奴に絡まれるのは日常茶飯事。あしらうのも慣れたものだが、折角のランチが不味くなってしまう。美味しいシャンパンも飲めていたというのにやれやれ…。泥酔するほどじゃないからこのシャンパンを飲むのは良しとする。

断ったというのに絡んできた男は引こうとしない。それどころか腕を掴んで無理矢理引っ張っていこうとする始末。時として強引さは女心を掴む事もあるけれど、残念ながらこんなんでは誰の心も動かせない。あーぁ可哀想に。彼女が断った時点で引いておきゃぁ痛い目に遭わずに済んだものを。選択を誤ったのはこの男である。

下手に動いて巻き込まれちゃ堪らない。グッと足を踏ん張った。しかし男は自分に対する抵抗… 悪あがきをと思ったようで。悪どい笑みを浮かべた。

「お「“ROOM”」

低く、唸るような声がする。呟きにも近いそれはけれどしっかりと耳に入ってきて。予想していなかった第三者の声に男はなんだと首を傾げた。その一瞬の隙をついて腕を引けばあっさりと拘束は外れる。それに男が「あ」と口を開くが再びその手が彼女を捕らえることはなかった。
その両手がぼとりと。音を立てて床に落ちたから。

「!!!??」

声にならない悲鳴が上がる。慌てふためく男は床に膝をついて腕を拾おうとするが物を掴むための指が無く空回るばかり。
視て、知っていたとは言えこれはなかなかに衝撃的だ。切り落とされた腕の断面図は不思議と黒く、肉や骨なんかは感じられない。こんな所でそんなものを見せられたら確実に食欲が失せるけど。

かつりと、靴の踵が鳴る。




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