悪夢に魘されるのはよくある事だった。
幼少の頃はそれこそ父親が原因で沢山の人間に糾弾されるものや殺されそうになる夢。白ひげことエドワード・ニューゲートに出会ってからはそれも徐々に少なくなってきて、漸く安息を手に入れたと言うのに。

それを破ったのは皮肉にも。いや運命なのかもしれない。同じ"D"を持つ者だった。

白ひげ海賊団最大の禁忌、仲間殺しを犯したマーシャル・D・ティーチ。フルネームを知ったのは奴がサッチを殺した後だった。途端にこの"D"に絡み付く運命が恐ろしくなる。そんなエースを嘲笑うかのように悪夢が襲う。真っ赤な血を流して倒れるサッチ。何処からともなく響くティーチの笑い声。恐ろしくなって逃げ出せば無数の目が此方を見て。視線だけで責め立ててくるそれらに、気が狂いそうになる。

それらを極彩色に染め替えたのは彼女だった。

『やぁお兄さん。今夜も来たの? 物好きだねぇ』
「……うるせ」

声に振り向けば真っ青な異国の衣装を身に纏う女が一人。肌を冷やさないような暖かく柔らかな風に吹かれその衣装が波立つ。それが傍にある大海原を彷彿とさせて、ゆるりと目を細める。あんな人工的な蒼なのに。


ー彼女と初めて会ったのはまだ記憶に新しい半年前のこと。穏やかで優しい夜とは違って、エースはその日も悪夢に魘されていた。
己の火が暴走し我が身を焦がし、多くの大衆がそれを喜ぶというもの。受け入れてもらえるこの身ではないと判っていてもあれは堪えた。いっそ本当に燃え尽きてしまえたらどんなに楽か。けれどそれではただの逃げだ。今の自分には成さねばならないことがあるし、何より家族を悲しませたくない。漸く辿り着いた安息の地。何の見返りも無しに迎えてくれる親父に沢山の兄たち。それを思って自然と涙が溢れた。

夢とはいえ、炎に巻かれているのだ。こんな一粒の涙などすぐに蒸発してしまうだろう。けれどそうはならず。
地に落ちた涙は大地に吸い込まれやがてぼこぼこと音を立てて大量の水を湧き出し。透き通った水をたっぷりと蓄えた泉へと変化した。ふらつき、倒れるようにしてその泉へと身を落とせば忽ち火は消え。次に訪れる息苦しさに反射的にもがいて両手で必死に水を掻き、上へ上へと登る。永遠にも似た水中は存外あっという間に終わってしまった。

肩で息をしながらも泉の縁へと腕を伸ばし肘をつき。もう落ちまいとしっかりと草を掴んだ。ところで我に返る。

何故、草が生えている。さっきまではすり減った煉瓦道でこんな草は無かった。バッと顔を上げれば、建物は何一つなく。代わりに宇宙のような夜空とそこに浮かぶ見たこともない何か。後にそれは惑星と呼ぶのだと教えてもらった。



×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -