ここで触れた事はないが、彼女の職業は占い師である。有能すぎる程有能な占い師。やってみろと言われれば特定の人物の一日の行動をピタリと当てることが出来るだろう。本人が忘れているような些細な事すらも。
その余りか権力者に声を掛けられることもしばしば。それに応じて相当の仕事をして、相当の報酬を貰って生きてきた。

そんな彼女がエースとの出会いもその死も予期出来ぬ筈がない。煙管から口を離し煙を吐き出せば風に拐われ消える。

『ー薄情者。』

それは誰に向けて言ったのか。
知っていて回避する術を教えなかった自分か、一言も助けを求めなかったエースか。言葉の真意は彼女だけが知る。

伏せていた瞳を上げれば浮遊する惑星。自分にとっては当たり前にあるもので然したる感動も無いものだがエースはしょっちゅうコレに心奪われていた。初めて会った時も最後に会った時も。…やろうと思えば彼と初めて会ったその時に、エースが己の夢に入ってくる為の経路を断つことは出来た。それをしなかったのは自分自身。エースとの関わりを断たないと選択したのだ。
あの時選び取ったのが道を閉ざす方であったならばこんな風に考える事もしなかったのだろう。判っていた筈だ。

関わる事にした時からこうなるのは視えていたし、そして再び選ばなければならない今。自分が何を選択するのかも判っている。

『本当に、人間ってーのは面倒くさい』

選んだモノの為に行動した後、この身の末路は知っている。いっそ人でなければ。もしくは感情が無ければ。そんなのは考えるだけ無駄だし、存外こういう面倒くささも好きだったりする。何だかんだと言って彼女は本当に人間臭かった。

イメージを強くしてその場に木製の椅子を具現化させる。そっと座ればテーブルも現れ。その上には酒とちょっとした食事。こうやってよくエースと星見酒と洒落込んだものだ。ついつい出してしまった向かい席には今は誰もいない。
エースが死ぬ。その理由も方法も知っている。心から馬鹿げていると思う。人の生まれが殺される理由になるなんて。理不尽すぎるだろう。権力者の側に居たからそういう理不尽な死を何度も目の当たりにしてきた。過去形だ。そう、彼女はそれらを助けた事はない。聖人君子じゃあないんだ。死にゆく者全てに手を差し伸べられる訳がなかった。
けれどそれは過去のこと。

『結局のとこ全てを左右するんは情っつーことか』

正義感なんていう御大層なもんじゃない。ただ単に彼と酒を飲めなくなるのがあまりに勿体無くて。手遊びをするように盃を触ると、立ち上がる。

一度強い風が吹き、草原を通り過ぎる。その風に拐われるように彼女の姿は消えた。




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