敗因が何だったかとすれば。相手の力量を把握しきれていなかった事。これに尽きる。
油断していた訳じゃない。どんな敵でも甘く見るなとマルコがよく言っていたから。だけど。奴は、黒ひげティーチはその牙を巧みに隠し白ひげ海賊団に潜んでいたらしい。それとヤミヤミの実の能力が付随して。
厄介な奴に厄介な実が渡ったもんだ。

『今晩はお兄さん。今日は随分と落ち着いてるね』

いつもの場所。草原に座り込んでボーッと惑星たちを見上げていれば女に声を掛けられる。

落ち着いてる。という彼女の言葉は的を得ていた。ティーチとの決闘に負けて海軍に引き渡された時は大層落ち込んだものだ。負けた事はもちろん己の身を七武海加入の材料として使われた事にもだ。
今、現実のエースの体はインペルダウンという監獄の最下層に囚われている。海楼石の鎖に繋がれ身動きもロクに取れない状態にある。物音は自分の立てる吐息だけ。
そんな何者にも干渉されない一人きりの世界はエースを静かに落ち着かせた。

恐らく、というよりは絶対。自分は処刑されるだろう。何てったってあのゴールドロジャーの息子だ。しかも白ひげ海賊団の2番隊隊長。隊長というだけならここまでされはしないだろう。海軍と政府にとって重要なのはエースがロジャーの息子という事実。きっと海賊になどならず一般人として生きていても何らかの理由を付けられて殺されていたに違いない。それほど海軍はロジャーを危険視していた。


まず間違いなく公開処刑。誰しもが怯み涙を流して命乞いをするであろう局面にあってもエースの心は穏やかだった。この血の宿命にはどうしたって逆らえやしない。

「なあ」
『うん』
「俺、多分、いや、絶対。もう此処には来れない」
『そう。…どうして?』
「死ぬんだ。処刑される。まあ、しょうがないわな」

悪くない人生だった。
幼い頃は海賊王の血を引いてるという事で悲観し悪辣なクソガキだった。それでもそれを無視して慕ってくれた兄弟が居たから立ち直れた。一人の男として海に出た後も白ひげに出会い再び人生が変わった。血の繋がりこそ無くても本当の家族のように分け隔てなく接してくれた兄たち。愛に満ちた自分の人生はとても温かだった。彼女と会った事で更なる安らぎと見知らぬ世界を知る事も出来た。
悪くない、人生だった。

『寂しくなるね』
「ありがとう。そう言ってもらえるだけで俺は救われる」
『こんなんで良かったら何べんでも言ってやんよ』
「ははは」

月に隠れた太陽が顔を出す。間もなく朝が来る。そうすれば現実。もう二度と此処に来る事も彼女に会う事もない。

顔が見たい。抱き締めてしまいたい。でもそうしたらきっと泣いてしまうから。最期に見せる顔が泣き顔だなんて男らしくない。
体がすぅ…と透けてゆく。誰かが怒鳴っている声がする。鼻を擽る煙草の匂いと脳裏に焼き付いた蒼を思い出しながら目を開けた。



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