トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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占い師の助言染みた言葉を賜ったその日の晩。一日を終え床につき目を瞑る。よぉっく見てみろ。女は確かにそう言った。見てみろも何も。辺りには海しか有らんし、そもそも夢の中で自由に動けるもんなのか。この歳になるまで。夢なんぞ何百、何千何万と見てきたが。そんなんあった試しなし。出来てもすごぉくゆっくり振り向いたりする程度。それを。なかなか無茶を言ってくれる。
それでもやってみようてはないか。ようやっとまともに与えられた助言だ。やってみるだけでも何ぞ変わるやもしれぬ。

床について瞬く間に眠る。とまでは行かんが新しい絡繰の案を考えながらうつらうつらとしとりゃあ。ぷつり。糸が切れたように夢の世界へ。ちゃんと助言の通りにせにゃぁな。と思ったところで目が開く。視界に入んのは霧のせいで白んで見える海。嗚呼どうやらいつものあの夢だ。見れて嬉しいんだか悲しいんだか。これまでならうんざりしとったが。今宵は女の言葉がある。

「(周りを見ろったって…。霧か海しか無ぇじゃねぇか。)」

思っていたよか動けるが。言葉に従って周りを見たって何も有りはせん。空だって。こないだは青い星が見えたが今回は無し。どうしろって言うんだ全く。やはり占い師等という不明瞭な奴に聞いたのが間違いであったか。がりがり。頭を掻きながらふと後ろに振り向く。やけに輪郭のはっきりした靄が自分目掛けて刀を振り上げとった。

「うおぉ!?」

がばり。文字どおり飛び起きる。体中冷や汗でびっしょりと濡れちまってる。乱れる呼吸をそのままに呆然と俯きゃ。汗がこめかみを伝い蒲団へと落ちよる。ぱたぱた。増える染みを眺めながら。それでもどこか冷静に頭の中ではあの夢の事を考えとった。
あれは、何だ。



ー間ー


どういう事だろうか。
あの晩。振り向き様に何ぞかに襲われそうになるとこで目が覚めた。以来執拗なまでに見続けとった件の夢は。とんと見なくなりおった。此方が辟易とするほどに毎晩見とったのに。途端に恋しく… なりはせぬ。悪夢で無し、身構える必要はありゃぁせんがあれは流石に飽きようて。今じゃ色んな夢を見れるようになった。まさか夢をこんなに楽しゅう感じるとは。いやはや今回の件は新たな発見と相成った。


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