荒くれ者の体を装って町を彷徨く。とは言うが見る者が見たら。着込んでる着物の上等さに気付いちまうだろう。気付かれたとて。声をかけてくる輩はそうは居るまい。目立つ髪色に風貌。体つきも良いときたもんだ。腕っぷしに自信のない町人にゃ。嫌われる類いの人種だと判っとる。…傷ついちゃいねぇよ。ああ本当さ。 いやいやてめぇの事はどうでもよくってだな。件の占い師はさてどちらか。城下町に居るっつーんは知ってっけども。明確な居場所はさっぱり。しくじった。いっそ盗み聞きなどしないで真正面から尋ねれば良かった。そう思っても後の祭り。此処はとっくに城下町だ。誰ぞかに尋ねたくとも。言ったように元親の見た目は大変厳つい。声を掛けようとするたけで目を逸らしてそそくさと立ち去られちまった。さっきなんぞ老婆に声を掛けよう思うたら。念仏を唱えられてしまった。泣くぞ。
そんなこんなで宛もなく。ではないが極力人気の多い場所を探して回る。目立つ成りをしている。と言っとったがさてどんなもんか。 ……………あれだな。うむ、確かに派手。
「天色の外套たぁ…。すげぇな。」
目にも鮮やかなその色。天よりも青く海よりも蒼く。自然にゃ存在せん色。いや外つ国には色鮮やかな動植物が豊富と聞くから。一概には無いとは言い切れん 人の視線を故意に集めんとする、恐らく噂の占い師。人が居るせいで看板は見えんが。あれで間違いないと元親の直感が告げていた。
まるで物乞いのよう。なんて言ったらあれだが。市場に軒を連ねるほど立派でもなし。敷布を敷いてその上に胡座を掻いて。一体どんな奴が。思って覗き込めばおやまぁ。そこに居ったのは若い女。いやでもこの歳でこんな所にいるってーと…。行き遅れか。 そんな失敬な事を考えとると。相手に伝わっちまったのか。女が此方を見てぱちりと視線がかち合った。煙管を片手に女が笑う。
『いらっしゃい。お次はお兄さんで?』 「や、俺は…。」
まだ人が居るだろうに。自分に声を掛けてきた女にたじろぐ。きょろり。回りを見りゃあ。女を囲うように居った人が一人も居らんじゃぁないか。どういうこった。大勢、とまではいかないがまだ確かに居たのに。何の店だと軽く足を止めただけの者であったのだろうか。それも判らん。 首を捻りながらも。まぁそれなら良いかと腰を屈めた。間近で見る女はやはり若い。こんなに若くて果たして当たるのか。勝手な印象だが。こういうんは皆翁か老婆だとばかり。
人生経験も程々に必要。だがそれより必要なのは才能であると。元親は知らぬ。
『まぁた随分と体格のいいお兄さんだね。さて、そんなお兄さんは一体何を占って欲しいのかな。』 「占って欲しいっつーかよぉ…。悩み?があって。」 『うん。大丈夫、聞きますよ。』 「……ここんとこ、毎晩同じ夢を見んだ。」
どうしてか。言い淀む事なく元親は事のあらましを口にした。もう一月以上は変わらぬ夢を夜の夢に見る。
船で沖に出て次第に霧が立ち込める。
文章にすれば僅か一行で終わっちまうような。そんな夢をずっと。眠るのを躊躇うほどの中身でもない。だけれども。同じ夢を見るからには。何ぞ意味があるのだろう。その意味がさっぱりで。坊主も祈祷師も頼りにしてみたが宛が外れてしもうた。 どうすりゃいい。呟いた言葉は元親本人も驚くぐらいに。弱々しいもんだった。短いけれど切実な元親の訴えを聞いて。彼女、六月一日は煙管に一度口をつけ。煙を吸って吐き出すと、じっと元親の残された目を見る。
『本当に、出てくるのはそれだけ?』 「あン?」 『次に同じ夢を見た時、周りをよぉっく見てみるといい。』
そして其処で見た事を決して忘れないこった。 そう言った女の助言が何時までも耳にこびりついて離れなかった。
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