そろそろ見るんを止めて。手当てせなにゃと男に近付く。傷が障らんよう手を触れて。持ち上げようと試みる。
『無理だな。』
ほんの少ししか持ち上げとらんのに。彼女は直ぐ様諦めよった。もうちょっと粘ってみても良かろうに。然れど彼女は己の腕力というものを十分に承知しとるので。 こんな大柄で、その上筋肉質な成人男性を担げるものか。努力しないのではなく悟っていると言っておくれ。
ならばどうすると言うのだろう。やはり見捨てるのか?そんなん決まっとろうが。己の最強の手札を使うのよ。頼りすぎだって? 頼るもんなんだよ管狐っつーのは。
『三ツ蜂。』
呼ばれて姿を表すは白毛三尾の管狐。今回は山犬程の大きさで現れよった。ちらり。主を見るとその意思を汲んだのかするりと男の下に潜り込む。背に乗せるように立ち上がり。落ちぬようその自慢の尾でもって男を押さえる。ううむ、ちょっと羨ましいぞ。今度やってもらおう。とは口に出さん。これは主に忠実だから。白い目で見おるなんてこたぁ無いけども。僅かな威厳は保ちたい。それでも尾っぽの件はお願いすっけど。
ゆるりと。男を背に乗せた三ツ蜂が立ち上がり。此方を見る。指示を仰いどるのだ。それをしっかり受け取って先導するように歩き出す。偶然先程見つけといて良かった。彼処なら暫くの間は人に見つかるまい。一先ずは手当てするまでの一時。匿おうじゃねぇの。それ以降は知らん。流石に目覚めるまでは付いておれんのよ。何より目が覚めた時に立ち会っちゃあ。今度は此方の命が危ぶまれる。本末転倒。願い下げだよそんなんは。
『おいで津々四。暫くは私の肩に乗っといで。』
腕を伸ばして呼びゃあ。大人しゅう降りてくる。おやま随分懐いちまって。嬉しそうに喉をくるくる。鳴らされちまったら爪の痛さなんて忘れちまうわ。肩に乗っかる津々四の背を一撫で。して、再び山道を行く。だけども今回は逆戻り。そっちに用があんのよ。
手前の足跡を見ながら進み。途中の分かれ道を右に行き。其処から程なくして。藪の茂みに隠されるようにして。ぽつん。洞窟があった。こんな分かりにくいもんを六月一日が見つけたんは。残念ながら偶然に他ならない。
出来うる限り木や草を倒さんようにして中へ入る。人の手が加えられとるんを見つけたらこの御仁の追っ手が嗅ぎ付けっからね。居るか分からんが。 ひんやりとした洞窟内。其処に人の気配は勿論。獣の気配は無い。何ぞかが穴蔵にしとろうもんなら退散願ったがこれ幸い。さあさ今の内に手当てして。とっとと先に進まな。
肩に乗っとった。津々四を三ツ蜂の頭へ。次いで三ツ蜂の背に乗せとった男を地に降ろす。邪魔だから兜を取っ払っちまいたいが。そんな命知らずな真似はしませんとも。ええ勿論
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