トリップ編
(占星術士の全国行脚)
bsrトリップ編 | ナノ


山装う秋深まりし今日この頃。紅に山吹そんでもって雀茶。まったく鮮やかなもんだ。新緑の瑞々しさも良いがやはり紅葉も良い。心が弾むと言うか。まあ機嫌が良くなるんは別に所以があっけどね。つい先日の。清史郎に降りかかった受難。それを祓った際に。頂戴した謝礼がね。まぁた御大層なもんだったのよ。これなら次の宿場でも酒が呑めそうだ。しっかりと見定めんと酒を水で薄めたようなんを出す店があっから。あれは酒じゃない。断じて認めない。

どうにも微妙な結末を迎えたもんだが。一先ずあの御二人はあれで良かろう。他の女に結びついとった赤い糸。それが強引に裁ち切られお静に。あんまりな事であったならば。あの呪いを切る事も考えたが。視てみりゃあれはあれで上手くいくと出た。それなら。この喉に引っ掛かるもんはゆっくりと飲み込もうじゃねーの。

ふぅ。とため息。今も今とて山中を行く。街道を行った方が確かに楽だけども。近いんはやはり此方なのよ。初めの頃はちぃと山登りしただけで息も上がっとったんに。最近じゃちっともだ。逞しくなっちまってまぁ。嬉しいような嬉しくないような。何とも言えぬ。
そんな気持ちを抱えながら登っとりゃあ。

「ピイピイ!」

木から木へ飛び移っておった津々四が鳴く。大きく翼を広げて。己の存在を主張しとるようじゃないか。そんなんせんでも見落とすわきゃねぇって。いやいや。津々四の事じゃなくてね。津々四のちょうど真下辺りの草を。えいやと掻き分ければ見事な朱。

『……やってらんねー…。』

呟きに反応する者は居らん。
無論。ああ無論知っていたとも。小さく細やかなこたぁ流石にいちいち視たりはせんけどね?こういうでっかいもんは視とるから知ってんのよ。それでもいざ対面しちまうと悪態を吐いちまうのさ。それぐらい許したって。
がさり。掻き分けた草を跨いで出る。改めてじっと見るんは地味なんか派手なんかよう分からんお人。白と黒の装束を身に纏い。真っ赤な髪と顔を半分隠す兜。筋骨隆々なその体躯にちょいと抱き締めてもらいたい。なぁんて彼女は思った。

ちらりと見りゃ。足と腕。一ヶ所ずつに切り傷。んん?と首を傾げる。この男のこたぁ一方的にだが知っている。視た限りじゃあこの男がこれしきの傷で昏倒するとは思えんが。そう思ぅて。じぃっと傷を観察すれば。何やら傷口が紫色を帯びている。ははん、毒か。常套常套。
この男は相当な手練れ。そいつを倒れさすんだ。かなりの毒と見た。まぁ毒の種類なんぞ分からんけど。

さてさて。一体どうしてくれようか。助ける義理はないが見捨てる道理も無し。助けとった方が後々。ずぅっと先になるが得をする事になる。大したこっちゃ無いけどね。恩は売っとくに限る。買うんは面倒だからしたかない。




[*前] [] [次#]

top
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -