若者の生命力、回復力には恐れ入る。つい昨日。その昼程までは床に臥せっておったのに。今じゃあこんな元気に振る舞っておる。己もまだまだ若いし回復力もあるっちゃあるが。果たしてここまであるかどうか。酒と煙管を止めりゃもうちっとまともになるか? 嫌なこった。こればっかりはどうにもならんで。
くっと自嘲気味に笑いながら。ぽんと清史郎の胸元を叩いた。
『お兄さん、親孝行っつーのは出来る内が華だよ。気張りんさい。』 「…はい。勿論です。」 『いい返事だ。』
素を出して言えば真摯な顔つきで頷く。嗚呼やはり、良い男だね。御面相だけじゃなくって。中身も男前とくりゃあ引く手数多だわこりゃ。呪っとった女中が御執心になんのも納得。
満足げに笑や。もう用は無いと彼女は背を向ける。砂利の敷き詰められた道を歩き門を抜け、た所で人に打つかってしもうた。よろける体を門に掴まる事で支え倒れちまいそうになるのを防ぐ。相手を見りゃ若い女の子。打つかったせいで何ぞ落としたようだ。 すかさずそれを拾おうと屈んだ。
『っと、失礼お姉さん。怪我は無いかい?』
声を掛けながら落とし物に手を伸ばす。可愛らしい布の塊。何かを包んでいたのだろう。それが少し解けて、中身が見えた。思わず目を見開いて手を止めりゃ。さっと白魚のような手がそれを掠め取った。 今のは。
「申し訳ございませんっ。慌てていたもので…!」 『…いえ、そちらが大事無ければ私も』 「お静!」 「清史郎さんっ」
慌てておった打つかった相手。お静と呼ばれた女子はパッと表情を明るくさせ、清史郎のとこまで走って行っちまった。そして抱き合う二人。そうか、彼女が清史郎の。明るく利発そうな子じゃないか。 だけど。お静が持っとったんは。ぐるぐるに髪が巻かれた人形の板。たった一目しか拝めんかったが確かに。左巻きであった。 なればあれは呪いではなく呪い(まじない)に成っとろう。何が違うかって?何も変わらん、あんなもの。そそれで清史郎を手に入れとるんだ。まるで蜘蛛のようじゃないか。
楽しそうに幸せそうに笑うお静を見て。久し振りに悪寒が走った。
『女ってやつぁ、怖いねぇ。』
さて皆様に御訪ねします。 これを幸福と呼べますでしょうか。
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