トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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朝飯を頂くと共に。この不吉な出来事を解決する許可を頂いた。辟易とした様子の悟郎ではあったが。まぁ余り、と言うかちぃとも彼女が清史郎を正気を戻せるとは思うとらんだろう。そりゃぁそうだ。こんな形の。それも偶然出会っただけの女がどうにか出来ると誰が思う。いいや誰も思わんて。自分で言ってて悲しくなるなんて事もありゃぁせん。だって事実だもの。

薄ぅく笑みを浮かべて庭を探索。散策じゃないのかって? いやいや探索でいいんですよ。だって今は確かに探し物をしとるんだから。他人様の庭。なもんで流石に煙管は吹かせられん。故に何ぞ物足りなく感じるがここはぐっと我慢我慢。後で思い切り吸ってやろうと心に決めて進む。まるでこの家の造りを把握しとるかのよう。別に十八番の占術は使うとらんよ。ただ嫌な気配のする方する方へと進んどるだけ。今んとこ。この家の中で嫌な感じを出しとるのは件の清史郎と。あの女の本体と。源となる物の三つ。その中で特に。特に淀んどる方へと。

そちらに近付くにつれ。言葉にし難い空気が強ぅなってくるのが分かる。そうして段々と。静かになってくる気がしよる。生き物の気配がしない。と言うべきか。それだけで此方の方で何事かが起きとると伺えた。あまり手入れされとらんのだろう。好き放題に生えとる草木を掻き分け。異変一つ。見落とさぬよう目を凝らす。
がさり。葉を一つ散らして草むらを分けりゃ。さぁお目当ての物のお目見えだ。

『見ーっけ。』

見下ろすその先にゃぁ一つの古井戸。竹を麻紐で繋ぎ合わせた蓋がされとるが。その蓋には落ち葉の一つも乗っかっとらん。ごく最近何者かが触れた証拠。よく見れば人の手形が付いとる。その手形の大きさが自分のそれと余り変わらん事から。やはり女なのだろうと一人頷いた。

さぁて。どれどれ。よっこらしょ。

蓋の上に乗せられとる重石を退かし、捲り。中を覗いてみりゃ。成程分からん。陽当たりの悪い所にあっからか、井戸の中は真っ暗で何も見えない。
その暗さに拍車を掛けるのが己の影というのだから笑えない。懐中電灯っつーもんがあればなぁ。あれは本当に優れものだと身近に無くなって知る。なんとなく。底の方で水面が揺れとる感じがするから水はあんのだろう。火を投げ入れてもいいが、それも一瞬。ふむ。と考える仕草をして徐に懐に手を伸ばす。取り出しましたるは毎度お馴染み銀の細筒。

『三ツ蜂』

しゅるり。呼びゃあ姿を現し。六月一日の肩に乗る。何時かの津々四をとっ捕まえた時のように小さい。きちんと筒の採寸に合うとる。井戸の縁にちょこんと乗っかり主を見上げ。命を待つ姿はちと面白…。おっと、愛らしい。くすりと笑ってその見てくれに合った小さな小さな鼻を擽るようにつついた。

『ちょっとお願いしたいんだけどね。こん中にあるいっちゃん嫌ーなもんを持ってきて。』

伝えりゃ直ぐ様井戸の中へ。このおどろおどろしい気配を怯みもせず進むんだから。いやはや誠管狐には恐れ入る。主が望むのなら例え火の中水の中。あれには何度助けられたか分からん。本当、連れてくる事が叶って良かったわ。でなけりゃこの旅も大分苦労しとったろうに。

暗い暗ぁい水底を。見とれば何ぞかがくるくる動いとる。そろそろか。覗き込んどった姿勢を直しゃ。丁度良い頃合いで三ツ蜂が帰ってくる。その口にゃあ。何とも禍々しい気を放つ物が咥えられとった。掌に収まるほどの木の板に。ぐるぐる。何重にも髪の毛が巻かれていて。ああ此れだなぁ。と思いながらうわぁと引いた声も出ちまった。
大体どんなもんが出てくるか分かっとっても、ねえ。いざ目の前にこんなのが出てきたら声の一つも上げちまうわ。けれどもそんなんを何時までも三ツ蜂に咥えさせとく訳にもいかん。受け取らにゃと、と手を差し出せばぽとりと落とされる。



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