トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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成る程。こいつが引っ付いとるからこの男は川に身を投げるなどという暴挙をしでかした訳だ。恐らく抵抗しとるのもこの女が原因。となりゃやる事はたった一つ。男の胸ぐらを掴んで退かすように引っ張る。まぁ見事にべったり。なもんで男に付いて動こうとする所をよぉく狙って。その隠された顔面目掛けて拳を打ち出した。

ぎゃああ!貼り付いとった女は断末魔の叫びを上げて消えおった。何とも言えん金切り声。思わず顔を 顰めちまう。これが己にしか聞こえんのだから困ったものよ。周りに同意を求める事も出来ん。
さてさて先ずは女を追っ払った訳だが。男の方はどうなった?何だかさっきから嫌に静かだな。どうしたと声を掛けようと唇を開けば。どさり。男がもたれ掛かってきた。何だと様子を伺えば。なんとまぁ気を失ってるじゃないか。あんなのに抱き着かれとったんだ。離れりゃ反動でこうもなるか。一人納得。…いやぁ、それにしても。

『随分とまぁ色男だね。』

影を作るほどの長い睫毛。きりりとした眉。すっとした鼻筋。精悍な顔立ち。色男と表現したが決して優男ではない。しっかりとした体つき。筋肉。そして漂う艶っぽさ。戦に従軍すりゃあ。違う意味で武将のお役に立てそうな。下品。

ならばあんな女が付いとるのも合点がいく。何処ぞで見掛けて勝手に惚れたか。或いは泣かされたか。本人に問うても知らぬ存ぜぬを通すだろうなぁ。この色男が入水自殺すんのを発見した時から。厄介事の気配は確かに感じとった。無視する訳にもいかなかったのよ。見つけちまったら誰だってそうだって。ほんの少ぅし息を吐き出して。男を川から引き上げた。



ー間ー



ひいひい。ぜえぜえ。そんな荒い息遣いが聞こえる。濡れた服に起きる気配のない体。しかも男。それを背負って行くんは大変に厳しいものがある。お陰様で体が冷える心配は無いが、体力が著しく減っていくのは懸念すべき点である。
この先には町がある。余所者には冷たくなけりゃいいんだが。過疎的な山奥の村とは違うのだ。その心配は少ないけども。ずり落ちてきた男を抱え直す。嗚呼全く嫌になるね。男一人をこうも簡単に担げちまったとは。

馬が無いもんで自分の足でのみ移動を行わなければならず。自然と体力や筋肉がつく。飽食の時代とも呼ばれた現代とは違って食べ物は至って質素。余分なものが落ちて体が引き締まるのを犇々と感じていた。程々にあった胸は現状維持なのが本当に嬉しや。多少減っても困らないぐらいある訳でもないからね。


そんな風に一人ぶつくさ考えながら歩いてりゃ。もう町の入り口まで目と鼻の先。ふぅ。息を一つ吐く。これでこの重い御方から解放される。力が抜けそうになるのをどうにか堪え。流石に此処で落としちまうのはね。さてもう一踏ん張り。して町に入りゃ直ぐ様人が寄ってきた。女が男を背負ってりゃ気にもなるわな。

「おぅいアンタ。一体どうした…っておいおいその人は伍郎さんとこの清史郎さんじゃねぇか!」
『おや、ご存知で?』
「ああ!この先の商家の御嫡男さ!朝から姿が見えんで皆で捜しとったんだよ。何だかえらい濡れてっけどまさか…。」
『いやね、ちょっくら川に飛び込もうとしてたんでね。余計な御世話かと思ったんだが止めたのよ。』
「余計な御世話なんかじゃねーよ!おいみんなぁ!手ぇ貸してくれ!清史郎さんが居ったぞー!」

男が声を張り上げりゃ。わらわらと人が集まってきおる。そしてあれよあれよという間に背中から男こと清史郎が下ろされ。その生家に連れて行かれ湯を頂き夕食を頂き。ありがてぇけど完全に巻き込まれたのを六月一日は感じた。
見覚えのある女が居ったから。







急にホラーめいたものが始まりました。勿論武将は出ませんよ!
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