トリップ編
(占星術士の全国行脚)
bsrトリップ編 | ナノ


冬の気配を犇々と肌で感じながら。それでも彼女の足は止まらない。本格的に冬が到来して。雪が降れば進む速度が格段に遅くなるのは目に見える。だからこそ少しでも進んでおこうと。
目的地は西方なれど冬になれば寒いし雪も多少は降る。下手したら道が雪に埋もれて通れん事もあり得る。雪崩に巻き込まれたり遭難したりだけは避けたいね。

取り敢えずは今日はこの先の町までにしておこう。寒くなってきたこの時期に野宿は少なくしなければ。朝二度と目覚めないなんて事になったり。なぁんちゃって。笑えない。

『(宿がありゃぁいいけども。んでもって酒も欲っしいなー。)』

代わり映えせん風景を眺めながら。すたすた。決して緩やかとは言えん速さで川沿いを歩いとれば。ふと目に入った穏やかな渓流に釘付けになる。何かが気になる。なんだ? 首を捻りながら違和感を感じる部分を注視すりゃ。おやおやなんてこった!自然の色と同化せんばかりに深緑色の着物を纏った男が川の中におるではないか。
しかもどんどん流れが激しく。そして深いほうへと行きやがる。大事そうに袂を抱え込みおって。中身は重石か?人の目の前で入水自殺なんて止しとくれ。ちくしょう。女が吐き捨てるには少々汚い言葉を呟いて。脱兎の如く駆け出し

まあ。まあ別に見過ごしてもいいんだけどね。でもそんなんしたら目覚めが悪いから。それに何ぞ嫌な気配も感じる。これが勘違いでなけりゃ。あの男は。ただの自殺てはない。背負っとる荷物をまるっと川原に放る。濡れちゃ困るもんが多いんでね。タロットはどうにでもなるが。煙管はちょいと困る。仕事道具より煙管を取るような女です。すみません。
ばしゃんっ。大きな音と水飛沫を上げて。川に飛び込む。一瞬にして這い上がる冷たさ。ひえぇ寒い!今すぐ出て火に当たりてぇ!だがそんな事をしては何の為に川に飛び込んだのか。己の行いに意味が無くなっちまう。

ざぶざぶ。水の流れに逆らうように川を突っ切る。 蹌踉け呑まれそうになるがどうにか踏ん張り。比較的ゆっくりとした足取りだった男の元にあっという間に着きおった。

『おいこら何やってんだお兄さん。』
「逝かないと…。早く早く早く… ×××が、だから、じゃあ。」
『(こいつぁやべぇ。)』

肩を掴んで無理矢理振り向かせりゃ。何とも虚ろな表情を男は見せよった。光の無い目。川に浸っとるせいで肌は真っ白。どんな奴でもこれを見たら危険だと感じよう。先ずは川から引っ張りあげる事が先決。男の腕をぐいと掴んで。岸まで連れていこうとすりゃまぁ大変。暴れる暴れる。えぇい抵抗するな面倒くさい。それを思いっきり顔に出して男を見れば。さっきまでは絶対に居らんかった女が男の肩から顔を覗かせていた。

長い髪を振り乱したまんまにしとるからか。その顔は分からん。しかしこれが悪いもんで。尚且つ肉体を持つ者でない事はよう知れた。



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