トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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『でっ!』

どすん!何かが落ちる音と呻き声が生まれる。その物音に冬支度を進めていた鳥が何羽か飛び立った。ぴちち。ばささ。しかし気にしてはおれん。木の根に強かに打ち付けた尻を労るので精一杯。生温い世界で生きてきた。故にこういう痛みにも弱い。流石に涙は出やせんが。じんじん。痛む尻をさする。痣が出来るかもしれない。冗談じゃない。そんな蒙古斑みたいなもの。

低く呻き。尻だか腰だかを抑えながら。ゆるゆる。立ち上がる。湿った落ち葉で滑ってしまわぬよう。足元に気を配りながら辺りを見渡した。

『気配は無い、かな…。』

多分。と小さく付け足す。言ったでしょう、人の気配なんぞ読めやせんと。一般人相手であれば何となしに感じ取れはすっけども。戦の玄人ともなれば。頑張るだけ無意味。
ふぅ。息を吐き出して外套に付いた埃を払った。次いで上を見上げれば紅く染まった葉が所狭しと。その隙間から申し訳程度に陽光が射し込んでいた。何故だか急に寒くなったように感じる。夏でも陽の入らん山奥は肌寒いもんだが…。これはあれだな。冬の気配というやつだ。大阪で時間を取られたせいで秋が深まってしもうた。くそぅ。予定ではこの頃には安芸に入るかどうかまで進んどったのに。それもこれも己がいらんお節介を焼いたからだが。
余計な事をしたとは思う。が後悔は無い。あるとしたらあの軍師の事だ。次は大阪を迂回して回ろう。

さて。ところで此所はどこら辺だろうか。辺りを見ようともまぁ見事に植物一色。人家は見えん。大阪よりは西ではあると思うが。まずは山を降りるのが先決だなぁ。きょろきょろ。何ぞ探すように頭上を見やる。一体何を? あの優秀な鳥さ。

『おーい津々四やーい。』
「ぴぃ!」
『うぉっ』

どさり。背後で大仰な落下音。振り返れば六月一日が落っこちてきた木の虚に見慣れた鷹が一羽。驚いとるのかばさばさと羽をばたつかせていた。加えて目も回しとる様子。宥め落ち着かせんとその大きい体を持ち上げる。見た目通りの重さに参ってしまう。



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