特に意見してきたこの男。石田三成はこの豊臣軍の中でも一等秀吉を敬っておるからその仕事はいつも完璧だし不備も無い。それはそれで構わない。しかし主君を崇拝する余り、時折参入する新参者には厳しい目を向けるところがあった。 今回は何処の馬の骨とも知れぬ者。顔も年齢も性別も性格も分からず。警戒するのが当然ではある。だが手の内に入れて損する事は無いであろうし、他に渡るのも阻止したい。
三成を納得させる為。基言いくるめる為に先ずは微笑みを携えた。
さてさて。先日の事ではあるが大雨が降ったろう。あれはもう大雨言うよか嵐だが。そん時まぁ恐ろしい事に土砂崩れが起きよって。ん? 嗚呼そうそうどうにか大事には至らなんだ。それと言うのも。それのちょいと前に文が届いたからなのさ。それにはまあ驚く事にその大雨の事と土砂崩れの事とが書かれておって。そんな馬鹿なと思いはしたがもしもがあってはならんで。要心に越した事は無い。そう思うて構えとったら本当に雨は降るし地は滑るしでまあたまげた。
其所で気付いたのはあの文の送り主が預言者なのではという事。その後もゆるりと文のやり取りをしてみたがやはりどうにも。誰にも他言していない事を知っとった時は流石に動揺した。此れは言わぬが。
とまぁそんな訳で。その者を手中に収めればどういった利益が見込めるか。秀吉にとってどれ程重要になるか。其れをよぉく言い含めれば段々と目を輝かせ始めた。誠、素直な男だ。
「そ、そこまでお考えだったとは…!この三成考えが至りませんでした!どうか許しを乞う許可を!」 「大丈夫、これから学べばいいのさ。君はまだまだ若いんだから。さ、行こう。もしもの時は頼りにしているよ。」 「はっ、お任せ下さい。」
膝を付きそうになる三成の肩をそっと抑えて止める。こんな所でそんな真似をする必要は無いと。泥で鎧が汚れるのも勿体ない。いざ戦とならば血や油なんぞで汚れるのだから、せめて。 灯りは無く。大分と分厚い雨雲のせいで月光も望めん。ならば闇に目を慣らす他無い。夜戦、奇襲の際こんなのはざらだから苦じゃないけども。がさがさ。雨に濡れた草木を腕で押し退かしながら進む。一体何でこんな処を待ち合わせ場所に選んだのか。理解出来ん。よもや人前に出るのを憚られる…。罪人ではあるまいな。
よしんばそうであったとしても重要視するのはその手腕。性格に多少問題があろうとも構わん。御しきれる自信はある。後ろに付いてくる男の息遣いを感じながらがさり。また一つ草を掻き分けた。
そうしてその先にあったのは黒と白が渦巻く傘。蛇の目が。此方に近寄るなと言っているような気がした。ちらり。目配せすれば僅かな葉音。忍は既に整ってある。そしてまた前方の人物へ目を向ける。 存外、小柄。女か? 何ぞ吸っておるのか。煙管か。煙が揺らめいておった。
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