トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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さらさら。さらさら。肌に触れる霧雨。しかしながら今は夜でもあるからこの雨を小夜時雨とも呼ぶのだろう。どうせ降るならもう少ししっかりと降ってほしいものだ。雨粒があんまりにも小さいもんで。風に吹かれて好き勝手降りよってからに。これじゃあ傘の意味が無いったら。
こんな雨でもこの時期にゃあ馬鹿に出来ん。ゆるゆるとだが。気温は下がりつつあるこの秋。夜はグッと冷え込むのよ。

だというのに雨に身を晒さねばならぬ。いやはや全く。嫌な日を指定してきたもんだ。帰ったら葛湯でも頂こうか。それとも湯のほうが良いか。時間が惜しいから葛湯かな。
ぼとり。傍らに影が落ちる。

「半兵衛様。皆配置に着きました。」
「判った。では指示があるまで待機していてくれ。」
「御意。」

来た時とはまた違って、闇に溶け入るように。すぅ。忍は消えよった。多才な事だ。一芸に秀でればいい者とは違う。忍とはそれでこそ。なのだろうが。諸国を渡り歩き密偵として情報を集め、戦場ではよう動き撹乱も担う。多才でなければ出来ぬ事。成りたい訳でも羨ましい訳でも無いけれど。あれらの教育は熾烈を極めると聞く。どのように何を、とは耳にした事は無いが見ていれば判る。己だってこの地位に立てるようになるまで随分と苦労したものだ。想像はつく。

なれば噂に聞く甲斐武田。越後上杉。相模北条の忍共は想像を越える修行をしたのだろう。持ち合わせた才能と婆娑羅を理由に。豊臣にも一人。そういうのが欲しい。

霧雨でも雨は雨。木々や地に敷かれる落ち葉を湿らせる。滑るなどという不様を見せんようしっかりと葉を、木の根を踏む。全く。肌寒いというのに後ろの男ときたら。よくもまぁ熱い視線を送ってくれるものだ。苦笑いを浮かべながら。振り返りはせず後ろの男に声を掛けた。

「何か聞きたい事でもあるのかい? ー三成君。」

ぱたり。葉から水滴が一粒落ち半兵衛の肩に跳ねる。息を飲む音が後ろからする。何故判ったのだとでも言いたげな空気が伝わってきおった。何故も何も。本当に彼は分かり易い男だ。謀には向かないその性分。

「いえ、私は何も。」
「嘘はいけないよ三成君。それに何も聞きたいという事は悪い事じゃあない。」

内容と状況にもよるが。

「…恐れながら伺わせて頂きます。何故、その得体の知れぬ者を引き入れようとされるのですか。そのような者居らずとも、秀吉様と半兵衛様がいらっしゃれば、」

ふむ。成程正論だ。少なくともこの豊臣軍は大将である秀吉一人いれば、どうにか機能する。強い光に惹かれるが如く彼を崇め奉る者も多くおるので軍としては十分だ。しかし全てを秀吉だけに任せては天下統一など夢のまた夢。書類整理や資源確保。それを行う者たちも必要。



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