トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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武家や公家。知っとる者の中でこんな風に予言じみた事を成せる者は居らんし、そげな噂も知りゃあせん。伊予、河野にゃ大層な先見の目を持つ巫女が隠されとる言うが。近いっちゃ近い。しかし遠いっちゃ遠い国の災害にまで助言してくるたぁ到底思えん。言ってしまえばただの土砂災害だ。歴史に残るような天変地異でも大飢饉の訪れでもない。


今の時代。例え同盟を結んどろうとも他国は敵国でしかない。何時協定を破ってくるか。それも分からんと言うんに、自国以外に目を向けるなぞ。

「…欲しいな。」

手に入れたい。この類い稀な先見の明。この文の主を手に入れられれば秀吉の天下統一への道程はより確実に。そして近いものになる。
逆を考えるならば。その力が何処かの国に渡ってしまったならまず間違いなく脅威となるだろう。例えどんなに策を講じても人智を超える先見の力によって読まれてしまや水の泡。

もし、力を貸さないと言うたのなら。殺す事も視野に入れとかな。他に渡るぐらいならいっそ。なんて物騒。おっかない。だけどもその冷徹さこそが軍師にゃ必要なんだろう。
優しく甘い人間ほどこの時代じゃ早死に。そして名も残らん。

「誰かいるかい。」
「ここに。」

静かな問い掛けに静かに応じるのは忍装束の男。何処からとも無く参じ、頭を垂れよる。男の姿をちらり。一瞥。ついと視線をこの城を取り囲む山々へと。けれども見とるんは山でも木でも無し。

「津々四… 鷹はどうしてる?」
「依然変わらず近辺の森を飛んでおります。主のところへと帰る様子は微塵も感じられません。」
「そうか…。」

文を受け取り、放したと同時にその行く先を忍に追わせた。無論津々四の主を知る為。然れども。此方に気付いとるのか何なのか。一向に主の元に帰る気配がせん。優秀すぎて困らぁな。
それともまぁた文の主に言われたんか。鳥が話せたら良かったんに。しかし何も情報が無い訳じゃない。

かれこれ七日、津々四を追うとるがどれだけ経とうともこの大阪城周辺から離れやせん。となれば。未だ主はこの城下町に逗留しとる考えるんが妥当。とうに出立したかとも思うたがこれだけ調教しくさった鳥を捨て去る真似はしなかろう。鳥を一羽。此処まで育て上げるんは骨が折れる。

「…見張ってる者に連絡して、鷹を連れてきてくれ。」
「はっ」

致し方ない。文通と洒落こもうか。




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