トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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何か胸に過るものがあって町の中心まで行かんで良かった。これなら直に町の外へそろりと出られる。見落とすほど地味な、どころか派手な外套を分かり易いように道の真ん中を出来る限り歩く。誘うように導くように。人にぶつからんよう、間を縫うように進み行けばあっという間に町の外れへ。この辺まで来りゃ大丈夫だろう。民家はあれど人気は無し。まあ人が居ようとも誰もこんな風貌の女には話しかけまいて。
触らぬ神に祟りなし。良い諺だ。

『津々四、出番だぁよ』

名を呼び腕を掲げれば一羽の鷹が其処に止まる。諸小手のお陰でこの鋭い爪が食い込んでもあまり痛くはない。肩に乗せ、羽を休めさせとる間にさらさらと紙に筆を走らせる。
偶に手を止め文章を考えて。それでもしっかりと認めてゆく。此れを送り付ける御相手は。ある意味、否、でなくとも中枢。彼処に城を構える豊臣軍総大将豊臣秀吉。その友にして軍の脳と竹中半兵衛。此方に送ったほうが確実であろう。豊臣秀吉に渡しゃ、文字通りその大きい手によって握り潰されてしまう。ならば。

何処の誰とも知れぬ者からの文なぞ信ずる事はせんだろう。しかし、この男ならもしもを考える。何で分かるかって?そりゃもちろん視たからさ。良いものも悪いものも混同して。

ふうと息を吐く。伝えたい事は綴った。後は半兵衛が此れをどう判断するか。それはもう彼方さんにお任せするっきゃない。
和紙に滲む墨を乾かしとる間に荷からある品を引っこ抜く。この町に来ていっちゃん初めに買うた物。望み通りの物がなかなか見つからんくてちぃと焦ったが。その分良いものを見つけられた。焦げ茶色の小さな筒。それにわざわざ店主に頼み込んでまで革紐を二つ。取り付けてもろうた。其れも此れも全ては彼の為。いや彼女か? そういや性別を知らん。まあいい。


津々四。名を呼んで、乗っとる肩の方の腕を見せりゃ素直にそっちに移る。お利口さん。しかし重いねお前さん。鷹は皆こんなか。腰掛けとった低い石垣の、その上に降ろす。空飛ぶ鳥を地に足付けさせる事ほど危なっかしいこたぁない。それを重々分かっとるもんで作業は手早かった。墨が乾いたのを確認してくるくると紙を丸め。筒の中に納める。
そうして其れを津々四の背中へ。羽を痛めんよう考えて紐を回し。ようし、出来上がり。

『頼んだよ。』

任せろ!とばかりに高く鳴く。筒に彫られた名が輝いて見えたそうな。




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