トリップ編
(占星術士の全国行脚)
bsrトリップ編 | ナノ


彼女は酷く後悔していた。過去の己の行いを。致し方無かったとは言えどうして後でちゃぁんと回収しぃひんかったのか。今更戻る事も叶わん。嗚呼どうしてあの時。

『(水晶回収しときゃ良かった…。貴重な飯の種を…!)』

今日よりほんの少ぅし前の事。遠い昔のようでまだまだ最近の出来事。信貴山城の怪異を鎮めるその際に魔除けとして三好長逸に小さくはあるが。水晶を渡しとった。
穢れが付こうとも浄化する事が出来んだから。しっかり返してもらっときゃ良かったと項垂れる。後悔先に立たず。本当に、本当に路銀が困窮した折りに売っ払って金に変える事も出来たんに。そうせずとも長逸に渡した理由と同じように。魔除けとして使える機会があったろう。

一応色々と持ってきてはいる。この時代水晶や瑪瑙… 平成で言うパワーストーンを手に入れるのはちぃと骨が折れる。今じゃガチャポンの景品になるぐらい蔓延しとる言うんに。

項垂れた頭を上げる。目の前の道を通り過ぎる人々。彼女の前で足を止める者は居らん。目線をくれる者は時折おるけども…。占、と書かれた看板を胡散臭そうに見ては目を背けよる。どういうこった。まぁこうなる事は覚悟しとったけども。現代ほど占いは民衆に浸透しとらん。ンなよう分からんものに金をかけるほど裕福じゃあない。
日々を生き長らえるんで精一杯。


けども一応この近辺じゃ大きい町で、直ぐ側にゃあお城。城下町っつーのに何てこった。小さな村ならばまだしも。うーむ。やはりこの天色の外套がけったいなのか。いつぞやの庄ヱ門も最初会うた時は怪訝そうな顔をしとったもの。やれやれ。己のような職の者が生きやすい時代が来るんは後四百年は先だなぁ。
地べたに敷いた敷物の上で胡座を掻きながら愛用のタロットカードをぱたりぱたりと捲る。物珍しげな視線が寄せられた。そのまま此方に来てくれりゃいいのに。
ぱたり。最後のカードを捲って彼女の手が止まった。そして渋面を作る。一体何が視えたと言うんか。

『何とまぁ…。最悪じゃねーか。』

吐き出すように悪態がぽろり。こうしちゃおれん。動かねば。微力ではあろうが出来る事が有るなら。しかし悪目立ちは出来ぬ。そして運命を大きくねじ曲げるのも許されん。なれば何をするのか。広げていたタロットと敷物を乱雑に荷の中に押し込む。とは言ってもタロットが駄目になってはおまんまの食い上げ。其処だきゃあ丁寧に。きょろきょろり。空を見やる。付いてきとる筈の影を探す。あぁ良かった居った。名を付けたったと言うんに姿眩まされたら嘆くわ。



[*前] [] [次#]

top
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -