トリップ編
(占星術士の全国行脚)
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それからまた進む進む。時折ある茶屋で休憩を挟みながら黙々と。話し相手も居らんのだから当たり前っちゃ当たり前。宿なんざ町や宿場でない限りある筈も無し。野宿も余儀なくされんのだが。
はてさて一体幾日風呂に入っておらんのか。久秀の処に逗留しとった頃は毎日湯を頂いとったけども。元来からあまり風呂に入らん習慣であったなら二、三日程度。けれども彼女はそんな事は無く、真っ当に毎日入浴し一日の汚れを落とす人間であった。
さぁ何が言いたいのかというと。

『(風呂に入りてぇ…。)』

一日ぐらいはしゃあなし。二日も嫌だけど我慢出来る。だがしかし三、四と続くと流石に耐えられんかった。どうにも汚い気がするし臭いんじゃないかとすら思う。この時世武家や公家。それなりの身分でない者達はそもそもあまり風呂に入らんというのは知っとるが。着物が汚れていようと臭おうと気に止めん。
己が嫌なんじゃと決心した彼女は人目を避けるように草むらに身を隠す。

いそいそと荷から出すのは周辺の地図と石の付いた首飾り。ぱぱっと地図を広げ、その上に首飾りを垂らす。所謂ダウジングという術であった。これの本質は占いとはまた違うものであるが。野次する者は無し。すぅと息を吸い込むと意識を手先に集中させる。程なくして石、ペンデュラムがゆらゆらと動き出した。それはこっから割と近くを指し示しとるようで。やったと拳を握る。
彼女の心の中は正に歓喜。手早く地図を折り畳み、ペンデュラムと共にまた荷へ押し込んだ。

さぁぼんやりしている暇はない。穴場と言われる場所であろうから人気は無かろう。しかしもしもという場合がある。何が起きるか分からんのが世の中。急がにゃ。太陽が西に傾いとる。陽が完全に沈んでから山道行くんはキツイて。これまでになく意気揚々と足を動かした。


道を逸れて茂みに入り。どんどん山に入っていけばあっという間に天色は緑に紛れ見えんくなる。あんな一際目立つ外套だというのに。
歩くにゃちょいと厳しい山道。大きな岩や苔むした倒木。棘のある蔦を潜って山を登る。人里よりも涼しくなるというのに道の険しさからか汗が流れ。足も泥で汚れちまった。けども気にならん。どうせこの後みぃんな綺麗さっぱり洗い流せんだから。

黙々と進み登って行けば何となぁく暖かくなってくる。湿気も感じる。後少し。もう一踏ん張り。終わりが見えれば頑張れるというもの。多少平坦になった地面を足早に行き草木をかき分けさぁ目の前に。

『うおお秘湯…!』

もわもわと立ち込める湯気。溢れ出る大量の水、湯。天然の温泉があった。勿論彼女のお目当てはこれ。今宵はこの付近にて野宿としよう。眠る前にこの温泉で体の汚れをたっぷり落としてからだが。



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