山をどうにかこうにか越え、整えられた道を行く。街道から少し外れているからか人通りは乏しい。此処で山賊なんかに襲われたら堪らんな。誰ぞに助けも求められん。そもそも襲われとる人間を助けようなどと考える人間はこの時代希少だ。見て見ぬふりが長生きのコツ。正義感が強くなるのはまだ先だろう。 何ぞあっては面倒だ。そうは思うがいやしかし。今は人が居らん方が良かろう。立ち止まりそろりと空を見上げる。
一羽の鳥がくるりと旋回し、近くの木に止まった。羽を折り畳み此方をじっと見つめ。伴うように溜め息が出てしもうた。何たる事。
『いやいやそんな馬鹿な。気のせいだって違うってホント。』
ぶんぶん。頭を振る。違う違うと思い込んでさあもう一回。鳥を見てみる。変わらず其処にいるのは。紛れもなくあの日助けた鷹であった。正確には鷹科の鳥、クマタカ。たまたま同じ種類の鳥なだけだろうて。いんや、あの足に巻かれた手拭いが何よりの証拠。それが目に入り頭を抱える。何てこった。 追ってきている事に気付いたのはつい昨日。山を出て暫くしてからだった。山中に鳥は多かろう。だから視界に入っても何も思わんかった。しかし、しかしだ。昨日山を出て、他にも人間が通る道を歩いとるのに何かしらが付いてくる。何だと思い、木の影に身を隠してみれば。頭上の枝に止まる一羽のクマタカ。 はあ!?と声が出てもしゃあない。
よもや報復に来たのではあるまいな。助けたとは言え元はあの罠を仕掛けたのも、また人間。その本人に仕返ししたいのは山々だが生憎何処ぞの者とも知れぬ。故に手近な人間を。何ちゅう恩仇。 そう当初は考えとった。だけどもどうやら違うようで。背を向けて歩いとると言うに待てど暮らせど一向に襲う気配は無し。 報復ではない。となると。
『なんっで野性の動物が懐くんじゃ…。』
懐かれた。この答えに行き着いてまた素っ頓狂な声が出てしもうた。
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