しかしこのままでは己も死にかけない。さしもの猟師も鷹なぞは殺めんだろう。が、罠を回収したくともこの様子では。金にならんのに殺されるのか。嘗ての山犬のようになりかねん。 仕方がない。乗りかかった船。鉢合わせたのが運の尽き。懐から銀の細筒を取り出す。
『三ツ蜂。』
呼びゃすぐ様姿を現す管狐。けれど一体どうしたことか。あの山犬を捩じ伏せた時ほどの大きさはなく、細筒より少し大きい程度。種明かし。なんてこたぁない。三ツ蜂が彼女の意思を読み取って、それに応じた規模に変化するだけ。爪楊枝ぐらいにもなれる。戸棚の隙間に落ちた物を拾ってきてくれと頼んだ時ゃぁ。微妙な顔をされたもんだ。
『嘴抑えとって。突っつかれたら堪んないかんね。』
突つかれたら絶対穴が開く。鍛えてないからいとも簡単に肉を抉られる。考えただけで痛うてしゃあない。怯まず高く鳴き続ける鷹。それの嘴に巻きつき動きを封じる。可哀想な気がしなくもないが今しばらくの辛抱を。自由になる為だ。我慢しておくれ。 やや大人しくなったのを認めて鷹の足元に跪く。あららガッチリ罠が食い込んどる。見てるだけで痛ぇわ。動物の足を挟み込む種類のそれ。とちって自分の指を挟まぬよう。慎重に。しかし手早く取り掛かる。獣医などおらんのだ。骨折や切断などしたら事だぞ。
どれ。よっこらしょ。押すように罠を開く。無うなった枷に鷹が過剰にばたついた。こらこら逃げんな。まだ手当てが済んどらん。 荷から手当て用の薬品を取り出す。鷹の足に塗ったろうとするも。暴れに暴れて手に負えん。だけども此方とてどうにかしちゃると決めた身。投げ出すのも中途半端も嫌いなのよ。押し潰さんよう足で体で押さえに掛かり薬を塗る。染みたのかよりばたつかれ。ちょいと待ってもう終わっから!包帯代わりにぎゅっと手拭いを巻き付ける。取っ払ってしまうだろうが…。とりあえずだ。
応急処置が終わってぱっと離れる。それを皮切りに三ツ蜂も鷹から離れ主の腕へ身を寄せた。鷹にしたのよりは大分緩めにぐるりと。
『まあそれで大丈夫っしょ。今まで通り、好きに生きんさい』
誰に縛られるでもなく自由な生を。 外套に付いた葉を払い落とし。鷹を避けるようにまた進み出す。がっさがっさと音を立ててゆく姿は決して手際は良くないが。その天色の後ろ姿をいつまでも鷹が見つめていた事は三ツ蜂しか知らない。
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